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★5 新しい狙撃銃を、生まれて初めての"ツケ"で購入した日。 「海賊が来たぞ!」 という大声が聞こえてきたのは、昼というには少し早い時間だった。 海賊ならとっくに来てるよ、あのハートの海賊団が。そう思いながらも確認のために港をこっそり覗き見て、は腰が抜けるかと思った。 自分は、もしかしたら疫病神なのかもしれない。 外からの船は、三ヶ月に一度来るか来ないかの頻度だ。町のひとはそう言っていた。 それが、海軍の船、それからハートの海賊団、と短い期間に立て続けに2隻。 それどころか今、まさに目の前で、黒い海賊旗をかかげる船が入ってきたところだった。 この数日の間に、まさかの3隻目だ。 そして海兵はたった一人。 これほどのババを引いてしまう確率って、一体どれくらいなんだろう。 どうやら、ハートの海賊団と違って、彼等はこの島に略奪をしに来たようだ。勘がそう言っている。船を降りる彼等の格好はどうみても武装していて、単に補給をしにきたわけではなさそうだったからだ。 ああ、なんてついてない。助けて大佐。 そうは思っても、どんなに早くても大佐がこの島に戻ってくるのは明日。つまり、少なくとも今日一日は、ひとりで戦わなくてはならないということだ。 とりあえず、急いで宿に戻って、リボルバーとカットラスを身につける。それから、銃の弾もありったけ。 街の人達も、どうやら友好的ではなさそうな海賊を警戒して、とっとと避難をはじめている。…とはいってもさして大きくも無いこの島に、避難できるようなところがあるとは思えないのだけれども。 も正直、一緒に避難したい。今日一日を逃げ延びれば、明日スモーカー大佐がきっとやつらを壊滅させてくれるという確信がある。なんといっても強いのだ、の上司は。 だけど… 「ほら、置いてけぼりのちゃん!いくら海兵ったって、あの数に一人じゃ無理だ!」 「一緒に逃げるぞ!」 宿の人達は、そう言ってを連れて行ってくれようとした。 でも仮にも海兵なのだ、は。逃げたくない。 きっとこの意地っぱりなところが自分の欠点なのだろうと思う。大佐にも、「お前のその強情さが、いつかお前を殺すことになるぞ」と諭されたことがある。 だけど、海軍が逃げたらいったい誰が市民を守るというのだろう。 ふと、頭の中で、あのトラファルガー・ローの顔が浮かんだ。 だけど彼は今日出航の日のはずだ。 もう既に出航している可能性もあるし、だいたいにして、街を守るために海賊が戦うだろうか?大佐が追っている麦わらの一味はそういうこともしているらしいけれど、あくまであれは例外に過ぎない。 自分が、やらなきゃ。 「どうしたんだ、ちゃん!ほらはやく!」 宿屋のおじちゃんが、手を伸ばす。 それに首を振って、は港へ向かって飛び出した。 飛び出したはいいものの、策なんてない。 接近戦はだめだ。一撃でさようなら、という事態が目に見えている。 にあるのは、この狙撃の腕だけだ。 高い建物の二階に上がり、すい、と銃身だけを出す。ライフルではなく、狙撃用の銃だ。 本当なら火炎放射器やランチャーやら、もっと威力の高い武器のほうがよかったけれど、仕方がない。今のにはこれしか武器がないのだ。 スコープを覗き見ながら、狙いを定める。 人の居なくなった町で、海賊達は屋台の商品から何から、好き勝手に漁っている。 その海賊の背を見て、は目を疑った。 薄汚れてはいるが、彼らの着ている服には、見覚えがある。 見覚えがあるどころではない。 あれは、いつもいつもが見てきた服。…が、着てきた服だ。 背中の「正義」に二重線が引かれた白い薄汚れたコート。 青いライン。 あれは、海兵の、海軍の服だ。 動揺して銃身を引っ込める。 あの海賊が、海軍を襲ってその服を身に着けたのだろうか。いや、それは考えにくい。 海軍を欺くためだというのならば、船についていたあの海賊旗はなんなのだ。 偽装するには甘すぎる。 ならば、考えられることはひとつだ。 あの海賊が、元は海軍であったということ。 (海賊に、成り下がったの…!) 海軍が海賊に、という噂は聞いたことがある。 あのルーキーであるドレークだって、元は海軍将校だったという話だ。しかしそれはあくまで例外、稀な事例だ。海軍は正義なのだ、決して海賊なんかに下ったりしない。そう思っていた。 だが、正義を捨てた海軍が、今、目の前にいる。 海軍イコール正義だと信じていたの理想が、がら、と音を立てて崩れ始めた。 いや、もはやあれは海軍ではなく海賊だ。だから、悪なのか。 ぎゅ、と握り締めた狙撃銃が音と立てる。 腹の底が熱くなった。 守護者から略奪者に落ちた彼等が哀れで、同時に酷く腹が立つ。 銃を構えなおし、スコープを覗く。 正義も文字が縦線で消されたコートを照準に。 トリガーを引くと、ぽひゅん、と消音装置が間抜けな音を出した。 <<< >>> (090915) |