きっと今夜は眠れない。そう思って目を閉じて、気付いた時には朝だった。

裾の長いメイド服を着た女の人が持ってきてくれた遅めの朝食を食べて、仕事の部屋に向かう。
そこで、机の上に詰まれた膨大な書類を見て、は頭が痛くなりそうになった。
そう、だからなのね。こんなに条件が良かったのは…。
ウォルターさんの言ったことが本当だとしたら、こういった雑務をこなす人が…その、皆殺し、にされてしまってから今日までずっと、こういった仕事はひたすら溜め込まれてしまっていたらしい。
使い古されたパソコンを開いて、書類とにらめっこ。どうせなら、全部データ化してしまえば良いのに…前勤務していた人は、紙で処理するほうが好きだったのだろうか。
ウォルターさんが親切に持ってきてくれた美味しい紅茶とスコーンを摘みながら、眉間に皺を寄せて仕事をして、気が付けばもう太陽が随分と地面に近くなってしまっていた。

(全然終わらなかった…)

ずるずると椅子から落ちかかり、は盛大に溜息をついた。
一通り見てわかったことは、ここはやはり普通ではないということだ。
大量の銃器と、病院でもないのに定期的に購入されている輸血パック。

(化け物、か…)

昨日の局長とウォルターさんの言葉を思い出していると、いつのまに入ってきていたのか、メイドさんが「局長がお呼びです」と声をかけてきた。





です」


重厚な扉の向こうから、「入れ」とハスキーな声が聞こえる。
中に入ると、そこには局長と、ウォルターさんと…それから、金髪の婦警さんが立っていた。
警備の人かな、と思いながら会釈する。
良く見ると、まだとても若いかんじのひとだ。すこし慌てた様子で、あちらもぺこりと頭を下げてきた。



、紹介しよう。局員のセラス・ヴィクトリアだ」

「はじめまして、さん!」



声まで可愛い。年齢も近そうだし、局長といいウォルターさんといい、物騒なことばかり言う人たちに囲まれてこれからここでやっていけるのかなって思っていたけれど…なんだか、これからの生活に光が差した気持ちだった。
局長の言葉を聞くまでは。



「昨日、フリークスの話をしただろう」

「あー…ええ」

「論より証拠だ。実物を見せておいた方が良いだろうと思ってな」



実物?一体どこにそんなフリークスが居るというのだろう。不思議に思って首を傾げると、くく、と喉の奥で笑いながら、局長がセラスさんに目配せした。



「戦闘員のセラスです。ええと…しゅ、種族はヴァンパイアです」



よろしくお願いします、と頭を下げた彼女を見て、は「ああこの人もか…」と思った。
やっとまともな人に会えたと思ったのに。
「吸血鬼についての詳細はブラム・ストーカーを読め」とインテグラ様は真顔で言った。そんな。
胡散臭い、という気持ちが前面に押し出されてしまっていたのだろう、セラスさんはちょっと眉を下げて、局長の方を見遣る。




「こんな乳臭い餓鬼が趣味だとは、まったく驚いたよインテグラ」




突然、真後ろから聞こえてきた低い声が聞こえた。
驚いて振り向くと、地面から人が生えてきていた。

なんだろう。これは。

最初は頭、次は胸まで、腰から足。地面からずるりと姿を現したその人を見て、は声も出せずに立ち尽くした。
真っ赤なコートに丸いサングラス。黒い髪に蒼白い肌の大男。酷く歪んだ笑みを浮かべたその人は、まるで何事もなかったかのように歩き出す。
それを呆然としながら目で追った。

「お前に言われたくはないな従僕。彼女は婦警と同じ歳だ」
「ひ、酷い…それ、わたしが餓鬼だって言いたいんですか」

局長とウォルターさんが酷く可笑しそうに顔を歪めている。セラスさんは苦笑いをしている。
一体、一体なんなんだろう、これは。


「さて、これで信じる気になったか、


局長が腕を組んでこちらに笑いかける。
し、信じるもなにも、え、ちょっと、そんな…


「彼らが、フリークスだよ」


は自分の気が遠くなるのを感じた。








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