このことは極秘であるから他言は無用。誰かに話しても…が狂人扱いされるだけだろうから構わんがね。

そう言って、局長は「ご苦労。後はウォルターが説明する」とこちらに背を向ける。
それきり振り向こうとはせずに、傍に控えていたお爺さんが恭しく一礼した。


「執事のウォルターでございます」

「あ、宜しくお願いします、ウォルターさん」


彼はにこりと微笑むと、扉の向こうへと案内してくれた。上品な人だ。
廊下を歩きながらきょろきょろと建物の中を検分する。赤絨毯に細工の細かい壁。まるで中世のお城みたいだ。…中世のお城の中になんて入ったことないけれど。
壁にかかった何枚もの絵を眺めていると、ウォルターさんが「絵に興味がおありですかな」と聞いてきた。

「ゆ、有名なひとの絵だったりするのかな、と思って…」

苦し紛れにそんなことを答えると、ウォルターさんが丁寧に絵の説明をしてくれたけれど、残念ながらにはさっぱりだった。
今度、ちょっと調べておこう…。


「ここが、様の仕事場となります」


通された部屋は、これまた重厚でクラシックな部屋だった。
部屋にはいくつかの机と、本棚がある。日当たりの良い部屋だ。ここでお昼寝したら気持ちが良いかも。



「素敵なお部屋ですね」

「お気に召しましたかな」

「はい。…ところで、他の方は?」



部屋の中を見回すが、働いている人は誰もいない。皆、休憩中なのかしら。 だが、ウォルターさんの口から出ていたのは残念ながら全然違う言葉だった。



「先日、皆殺しにされてしまいまして」



みなごろし。不穏な言葉に、首をぎ、ぎ、と動かしてウォルターさんの方を振り返る。
彼は至極真面目な顔をして、「ですから、暫くは様お一人で働いて頂く事になります」と言った。



「机は、どこでもお好きな場所を。何でしたら日替わりでも構いません」

「いやあの、皆殺しって…冗談ですよね」

「真実ですよ、レディ」



開いた口の塞がらないを横目に、それでは私室に案内致しましょう、とウォルターさんは扉を開ける。眩暈がしそうだ。さっきのインテグラ様の言葉といい、一体ここは何なのだろう。自分の思っている以上に、危険な職場なのかもしれない。
いやそれとも、皆でをからかおうという魂胆なのだろうか。新入社員に歓迎のドッキリ企画、とか。そうであって欲しい。

案内されるままに、赤絨毯の階段を昇る。
どうやら、仕事場とは別館に繋がっているようだ。
着いた先、たくさんあるドアの一つの鍵を開けて、中に通された。



「ここが私室になります。その他注意事項はベッドの上の書類に。必要なものは私にお申し付けくださればすぐに御用意致しましょう」

「あ、あの!」

「なんですかな?」

「その、さっきの、皆殺しって…誰に、ですか」

「それは勿論」



上品な紳士は、眼鏡の奥の目を細めた。



「化け物共にですよ、ミス」



ああ、本当に。天国のお母さんお父さん、はちょっと、大変なところに就職しちゃったみたいです。








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