「ようこそ、


そう言ってこちらに微笑みかけた新しい上司は、鋭い目と浅黒い肌に薄い金色の髪の、それはそれは美しいひとだった。
女性的ではない。かといって男性的でもない。よく切れるナイフみたいな美しさだ。
彼女は、高そうな葉巻を口に咥えたまま腕を組んで「まあ座れ」とふかふかのソファを指差した。



「わたしが局長のインテグラル・ファルブリケ・ウィンゲーツ・ヘルシングだ」

「え?い、イン…?」



その長ったらしい…じゃなくて、随分と歴史の多そうな名前…まぁつまりは長すぎる名前に驚き、思わず聞き返してしまった。
でも、局長はそんなの失礼な態度も気にすることなく、表情を変えずに「インテグラで良い」と煙を燻らす。



「仕事のことは聞いているな」

「はい、ええと…」

「分かっているなら良い」



の仕事は、良く言えば秘書、もっとあからさまな言い方をするならば事務的雑用。
勤めていた会社が…一言で言えば潰れてしまい、無職になっていたところを拾って貰った。なんとか機関、というちょっと物々しい感じの会社(会社なのかどうなのかもよく分からない)だが、国の機関なのだから突然潰れるなんてことは無いだろう。
品の良さそうなお爺さんが持ってきてくれた紅茶が、を誘う。
書類ととを見比べたあと、局長はすこし意地悪そうににやりと笑って、「さて、。実はお前に言わなくてはならないことがある」と言った。



「これは、契約時の書類には書かれていなかったことだがな」



局長の言葉に身構える。
賃金も高く、衣食住の面倒まで見てくれるという信じられない程に条件の良い仕事だと書かれていたが、やはり裏があるのだろうか。
よく考えてみれば、特になんのキャリアも無いにこんな仕事を持ちかけてきたこと自体怪しい。職に就ける、という喜びにばかり気をとられて深いことまで考えなかった。
膝の上で拳を握りながら、はごくりと唾を飲み込んだ。



「そう硬くなるな」

「は、はい」

の仕事の内容に変更は無い。だが"我々"の仕事についてはまだ言っていなかったな」



これは極秘事項なのだがな、と煙を吐き出して、眼鏡の奥の碧眼が笑う。
こつこつと踵を鳴らしながら、局長はこちらへと近付いてきた。
なんとも言えぬ圧迫感に、思わずは背を反らせる。



「我々の仕事は、女王陛下の治めるこの大英帝国の敵を滅殺することだ」

「……て、てき?」

「そう。そして敵とは勿論政治家や企業や国家スパイなどではない」



「我々の敵は、命の鎖から放たれ夜を歩き人を襲う、正真正銘のフリークス共だ」



ふう、と彼女が吐き出した煙が顔に当たる。
彼女の後ろでは、執事のお爺さんが薄く笑っていた。

局長の綺麗な顔を間近で見ながら、は「失敗した」と思った。
国家の機関とかなんとか言ってたけど、ここはとんでもないオカルト集団の本拠地だったみたいだ。








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