「ねえねえ、変じゃない?」
黒のシックなドレスを着たは、ダンテの前でくるりと回って見せた。
普段、あまりこういった服を着る機会が無いために、いざ着るとなるとどうにも落ち着かない。
合わせるアクセサリーから靴まで、全てについてひとつひとつダンテに確認をとる。
いい加減辟易しても良さそうな頃だが、ダンテは嫌な顔ひとつせずにに付き合ってくれていた。
今日は親しい友人のバースデイパーティに招待されている。
その友人というのがまた育ちの良いお嬢様。
当然、パーティ自体カジュアルな服装で行けるようなものではなく、仕方なくクローゼットの奥からこんなものを引っ張り出して来たのだ。
「うう、やっぱりおかしい気がする…」
「そんなことないさ。良く似合ってるぜ」
本当に?とやや疑いの眼差しでダンテを見る。
ダンテは肩をすくめて、本当だと答える。一体今日何度目のやりとりなのか。
途中から数えるのをやめてしまった。
「ただ…」
「ただ、何?」
「少し開きすぎじゃないか?」
どこが、と首を傾げるとダンテは自分の胸元を指差す。
のドレスはデコルテが大きく開いているタイプで、自分でも開きすぎではないかと思う。
だが、生憎とドレスなんてそう何着も持っていないにとって、他の選択肢などなかった。
「仕方ないじゃない、これ以外持って来てないし」
じゃなきゃわたしだってこんなの着ないよ、と言って時計を見る。
そろそろ出なくては、パーティに間に合わない。
テーブルの上に置いてあった赤いルージュを取って塗ろうとしたが、その手はダンテによって遮られた。
「急いでるんだから邪魔しないでよ」
「その色は似合わない」
「な…」
「ちょっと上向け」
顎を掴まれ無理矢理に上を向かされる。
一体何、と見ていると、ダンテが開いた方の手で別のルージュを手に取り、口を使って蓋を開けた。
「すこし口開け。…開き過ぎだ。…そう、動くなよ」
唇に、ひやりとしたルージュが当たる。
すう、と唇をなぞるそれと、顎に当てられた手、それから唇を見るダンテの真剣な眼差しにどうしようもなく恥かしくなるが、顔を逸らすわけにも行かずただされるがまま。
顎を押さえていた手の指先が、首筋を撫でる。
ごくりと喉が鳴ってしまって、それを見たダンテの口端がかすかに上がった。
「…もう終わったでしょ!」
突き放すように離れて、鏡を見る。唇の色は薄いピンク色だった。
ありがと、とこれまた素っ気無く礼を言って、ストールとバッグを片手に足早に家を出ようとすると、ダンテがまるでどこかの紳士のようにドアを開けてくれた。
「妬けるな」
「…何に?」
「今夜、この肌を見る全ての男に、だ」
言いながらダンテの指がうなじから肩のラインを滑り落ちる。
その手を音も高らかに払いのけるが、ダンテは全く悪びれた様子もない。
は、行ってきます、と形式ばかりの挨拶をして外に出た。
「今度、俺がお姫様に素敵なドレスをプレゼントしてやるよ」
背にかけられた声は無視して、タクシーを拾う。
きっとまた自分は耳まで真っ赤になっていて、会う友人全てにそれを指摘されてしまうのだろう。
恥かしくて悔しくて、それなのになんだか少し嬉しくなって、は小さく微笑んだ。
さりげなく、告白
(でもあいつは絶対気付いてない)
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