金属のぶつかる小さな音がする。は、拳銃というものは好きではなかったが、ダンテが拳銃の手入れをしている最中の奇妙な静寂と、小さな金属音が好きだった。
二人で同じ部屋に居る時は、絶えずダンテかのどちらかが喋っていて、静かな時間などほとんどない。
だが、ダンテが拳銃をメンテナンスしている間だけはどちらも無言だった。
その拳銃はダンテにとってとても大切なものらしく、には触らせてもくれない。
もちろん、そんな危険物に触れたいとも思わないが。


事務所のライトはちかちかと点滅している。
そういえば、換えの電球を買ってくるのを忘れてしまった。
不規則に点滅するライトは、あまり気分の良いものではなかった。
明日換えに行かなきゃ、と考えて部屋を見渡すと、今までは気付かなかった写真をひとつ見つけた。

(女のひと)

写っているのは、金色の髪をした綺麗な女のひとだった。
今までダンテの口からは、そんなひとのことは一度も出ていない。
恋人だろうか。
純粋な好奇心から、はダンテに尋ねた。


「あの写真のひとって、ダンテの恋人?」


ダンテは目線だけを上げて、の指差す方向を見た後、違う、とだけ返してまた作業に戻った。
その様子から、余り触れられたくないことなんだなと悟って、それ以上追求することはなかった。

奇妙な静寂は、未だ事務所を包み込んでいる。


「母親だ」


ダンテは拳銃に目を向けたまま、呟くように言った。
銀色の髪が顔に落ちていて、その表情を伺うことはできない。


「あんまり似てないね」
「父親似だからな」


ふうん、と返事をして、また静寂が訪れる。
思い返してみれば、はダンテの事を何も知らないのだ。
彼は自分から出自に関して話すことはなかったし、別段も尋ねたりはしなかった。
知らないといえば、それも当然。

ダンテは悪魔だと自分でも言っているし、それは目で見て理解できる。
傷は瞬く間に塞がるし、その身体能力も人間とはかけ離れているから。

(そもそも、)

悪魔というのは一体どうやってなるものなのだろうか。
ダンテの両親が悪魔だから、という遺伝的なものなのか。
それとも人間であったダンテに悪魔が取り憑いて、悪魔の力を手に入れたのか。

(大体、悪魔って子供産んだりするの?)


考えても答えなど出よう筈もなく、気付かぬうちに眉間に皺が寄っていたのか、ダンテが声をかけてきた。


「お前、また馬鹿なこと考えてるんだろ」
「そんなことないよ」


思考の海から引き戻される。拳銃は綺麗に組み立て直されていた。
ダンテは椅子から立ち上がり、ゆっくりと写真立てに向かって歩いていった。
その足取りがいつもより重いように感じられるのは、気のせいだろうか。


「母さんは人間だった。親父は悪魔だった。二人の間に俺達が生まれて、俺達を護って母さんは死んだ」


説明は単純明快だった。
とても簡潔、だからこそ、ずしりと重い。
俺達、ということはダンテに兄弟がいたということだろう。
父親とその兄弟がどうなったのかは聞かない。
言わないということは、ダンテ自身解らないか、言いたくないということだからだ。

ダンテはこちらに背を向け、写真の中の母親を見つめている。
彼の意識は今、失われた過去にあるのだろう。

はそっとダンテに近付き、その背に手を伸ばした。けれど思い直して手を下ろす。
そうして、いつもより少しだけ弱々しく感じるダンテの背に、自分の背を預けた。


「なんだよ」
「幸せだね」


ダンテの背中がちいさく緊張した。なにがだ、と言いたいのが見なくともわかる。


「愛されてた」


母親が死んでしまう前も、きっと死んでしまった今だって。
経験したことがないからこその、楽観的な意見だと言われるだろう。
一切の悲劇から目を逸らしていると非難されても仕方が無い。
だが、現実は変えられないし過去は戻らない。
だから暖かい部分に目を向けるのだ。


「愛されてる」


ダンテの背中から、ゆっくり力が抜けていく。
震えるような振動が伝わってきて、ダンテが笑っているのだということがわかった。

お前は俺を愛してくれないのか、という質問には、さあね、としか答えることができない。
今はまだ。






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