買い物に行こう


「ダンテ、買い物行くから付き合って」


家主の部屋の扉を乱暴に開けて、ずかずかと入っていく。
自分も随分と図太い行動をするようになったものだとひとり感心した。
日本人独特の慎ましさなどはキッチンの汚れと一緒に洗い流した。
この銀髪の男相手に謙虚に遠慮がちになんて生活出来ない、ということを、はこの何日間かで学んだ。
それと、この家には生活用品というものが皆無であることも分かった。
これまで一体どうやって生きてきたのか不思議でならない。
せめて人間らしい生活がしたいと思い、買い物に誘ったのだ。


家主の男はこちらを一瞥した後、シーツに潜り込んで拒否の意を示した。
だがはそんな事はお構いなしに、シーツを無理矢理剥ぎ取ってダンテの肩を揺さぶる。
ダンテは眠る時はいつも上半身裸で、最初は驚いたものの今ではすっかり慣れてしまった。


「起きて起きて起きて起きて」
「…なんだよ、俺が付いていく必要ないだろ…」
「か弱いレディをこんな治安の悪い街にひとりで行かせる気?それに荷物は誰が持つのよ」
「…か弱いレディなんてどこにも見あたらな」


ダンテが言い終わる前に、その腹めがけて拳を繰り出した。
勿論わたしのパンチひとつでダンテがどうこうなるわけでも無いのだが、少なくとも腹の虫は納まる。


「…オーケィ、わかった。お姫様の望みどおり、エスコートしてやるよ」


ダンテはベッドの上で降参だと言うように両手を挙げた。
だが一向に身体を起こそうとはしない。


「ちょっと、適当にあしらってうやむやにしようったって、そうは行かないわよ」
「そんなつもりは無いさ、ただ…」


何か足りないと思わないか、と言ってダンテは自分の唇を指差す。
一体何のことかと首を傾げると、腕をぐい、と引っ張られた。
掠めるように唇が触れ合って、反射的に手を挙げた。
だが、頬を引っ叩こうとした右手は逆に捉えられ、視界がぐるりと反転する。
ぼすん、と柔らかい音を立てて背中からベッドに落ちた。
目を開ければ、煤けた天井と、悪戯が成功した時の子供のような顔をしたダンテ。


「お目覚めのキスくらいは頂いたって良いだろ?」


じわじわと、顔が熱くなっていくのが自分でもわかる。
きっと今、自分は耳まで真っ赤に染まっているだろう。
ダンテの顔がぎりぎりまで近付いてきて、それに比例するかのように心臓の音が煩くなる。


「俺はこっちのエスコートの方が得意なんだが、どうする?」
「結構です!!放して!」


耳元で囁かれた言葉に、むきになって返した。
ダンテは面白そうに笑った後、の耳朶にキスをして離れた。


「シャワー浴びてくる、ちょっと待ってな」


なんならそのままベッドの上で待っててくれてもいいぜ、なんて言う男の背中に向かって、は思い切り枕を投げつける。
今日はあの悪魔が疲れ果てるまで連れ回して、山のような荷物を持たせてやろうと心に誓った。






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