これは誰かの陰謀か?


ああ神様、なぜこの試練をわたしにお与えになったのか!
あなたに慈悲があるのなら、今すぐわたしをこの状況から救い出してください。

柄にも無く神に祈ってみたところで現実は変わらない。
は恐ろしい程に散らかっているキッチンを見て溜息をついた。
ここはこの世の終わりだろうか。
キッチンの掃除だけで一体何時間かかるだろうかと考えて、頭が痛くなった。


「そんなに眉間に皺寄せるなよ。せっかくの可愛い顔が台無しだぜ?」


キッチンの扉に凭れかかっている男の言葉は無視して、は掃除に取り掛かった。
コミュニケーションは大事だぜ、これから暫く一緒に暮らすんだからな、という声も黙殺する。



がここに来たのは今日の午前のこと。
詳しいいきさつは語らないが、ダンテが"取るに足らないこと"で"ちょっと暴れた"おかげで、の家は半壊状態になり、止むを得ず暫くの間この家に厄介になることになったのだ。
本当は、こんな危ない男の家になど来る気はなかったが、『俺の所為でこんなことになったんだから俺が責任を取る。修理が終わるまでは俺の家を自由に使ってくれ』とまるで頼み込まれるように言われ、ついに折れてしまったのだ。
だが、今ならばわかる。なぜダンテがあんなにも必死に家に来るように言ったのか。


(これをどうにかして欲しかったってわけ!)


キッチンは見るも無残な状況。
ピザの空箱は積み放題。トマトジュースの缶だってごろごろ転がっている。
炊事した後は見当たらないがシンクだって酷い。
男の独り暮らしなんてこんなもの、という言葉では片付けられない惨状だった。


「人間の住むところとは思えない」
「人間じゃないからな」


屁理屈を言うダンテに向かって床に落ちていた缶を思いっきり投げつける。
勿論それが当たるわけもなく、缶はダンテの脇を素通りして音を立てながら転がっていった。

彼が人間ではないことはわかっている。
なにせわざわざ目の前でご披露してくれたからだ。
その結果は、自宅崩壊。

良く行く酒場で飲み仲間だったダンテが、ぼろぼろの状態で家の前の通りに倒れていた。
心ある人間ならば誰だって助けるだろう。
そうして助けた男は、実は悪魔に追われていた、などと誰が想像できただろう。
ましてや、悪魔の存在など露ほども信じていなかった人間に!


「…まずはこれを片付けるから、ダンテは事務所のほうに行ってて」
「手伝おうか?」
「いらない。この惨状を見れば、あなたに掃除のスキルは皆無であることは明らかですから!」


拳銃は上手に使えるくせに、スポンジひとつ満足に扱えないであろう男を睨みつける。
ダンテは悪びれもせずに、じゃ頼んだぜなんて言いながらキッチンを出て行った。
このおぞましいキッチンとは対照的に、きらきら光るあの銀髪を思い切り引っ張ってやりたい気分だった。