「オカルトか」


意識と無意識の狭間で、低い声がする。ここはどこだろう。夢なのか現実なのかよくわからない。
身体が揺られて、ふわふわして、水の上に浮いているような気持ちだ。


そうよ、オカルトよ。こんなのあって良い筈ない。異常だもん。

「ほう。ではお前にとっての正常とは何だ」

あんたみたいなフリークスが居ないことが、世界にとっての正常だわ。

「ではこの現実をどう思う」

冗談じゃないわ。
ほんとに、ほんとに…



「くそっくらえよ!!!!」











「わ、すみません!」


ばち、と目が覚めると、満天の星空だった。
あんまり広いとは言えない場所。目だけで辺りを見回して、人影を認めた。

「目、覚めましたか…?」

心配そうに声をかけてきたのは、自称ヴァンパイアのセラスさんだ。
「ここは…?」「救護班のカートの上です。どこか痛いところはないですか?」
首がすこし痛い気がするが、それほどでもない。だるい身体を起こそうとすると、セラスさんが背に手を添えてくれた。

「あの…何がくそ食らえなんです?」
「…ただの寝言です」

辺りには物々しい軍用車が数台止まっており、目の前の建物…ベスの住んでいた貸家は穴だらけの酷い状態だった。



「彼はもう倒しましたから、大丈夫ですよ」

「彼…?」

「アーサー・クリフ。彼はヴァンパイアだったんです」



またオカルト。もう勘弁して、と思いながらも一応話を聞く。
どうやら、アーサーはヘルシング機関が追っていた吸血鬼のひとりなのだそうだ。ベスは一般人で、アーサーに食われる間一髪のところで救出された。さあ後はアーサーを始末するだけ、というところでまさかのわたしの登場により少しだけ予定が狂ったが、遠隔射撃で見事セラスさんが仕留めて事なきを得た、ということらしい。これまた、映画みたいな話。



「おさらば、と言った筈なのだが…また会ったな、



ハスキーな声に顔を向けると、そこには件のオカルト局長の姿があった。あの上品な執事も後ろに控えている。そして、あの、赤い外套の男も。
「セラスとアーカードに礼を言うんだな。お前は化け物に命を救われたのだ」
アーカード。あの赤い外套のひとは、アーカードって言うんだ。


「ストーン社のことといい、お前は余程フリークスに縁があると見える」

「ストーン社って…あの、」

「お前が勤めていた会社だよ。あそこのトップも化け物の一味だった。我々が叩いた」



は頭が痛くなりそうだった。そんな、じゃああの会社が潰れちゃったのも、わたしが無職になったのも、その所為だったっていうの。
はもう一度、そのカートの上に倒れこんだ。
これじゃ、アーサーが紹介してくれるっていってた会社も怪しい。



「じゃあ、再就職の話も無しってこと…」

「お前の思っている以上に、化け物共は社会の奥深くまで入り込んでいるということだ」



もうつっこみを入れる元気も無い。「また無職…」と呟くと、局長は煙草を燻らせながらこちらへ歩み寄ってきた。



「いい就職先を紹介してやろうか」

「ほ、ほんとですか」

「衣食住は全てサポート。給与も良い。仕事さえこなせば後は好きにして構わん」

「なんでもいいです。それ、どこですか?」

「ただしスタッフに若干名、ヴァンパイアを含む」

「……」

「どうだ」



にやり、と人の悪そうな笑みを浮かべる薄い褐色の肌の彼女が悪魔のように見えた。



「誰が化け物がわからん場所よりも、誰が化け物かはっきりしている職場の方が良いとは思わんか」



こうなったら、もう誰も信じられない。
フリークス。フリークス!!化け物なんて、ゲームと本と映画の中の話だと思っていた。それが覆される日が来ようだなんて。
局長を見る。
笑っている。
ああ、そう。これがわたしの、運命ってことなのね。


「………宜しくお願いします…」


弱々しい声で、は宣言した。このオカルトな世界へ足を踏み入れることを。
もうやけくそだ。なるようになる。そう信じるしかない。

セラスさんの方を見る。へらりと笑った顔は、普通の人間と全然変わりない。
ウォルターさんの顔を見る。上品な紳士は、どこか黒い笑顔を浮かべたままだ。
そして、赤い外套のアーカードさんを見る。サングラスの所為で、その目が見えない。


「せいぜいこの糞食らえな現実に揉まれて足掻くといい」


にやりと笑った口元から覗くのは、紛れも無く人間ではありえない犬歯。彼が化け物だという証。
「簡単に死なないように努力することだ」と、あの低くてどきっとする声で皮肉をひとつ飛ばした後、彼は冗談みたいに掻き消えた。





「ようこそ、ヘルシングへ」





……ああ、なんてオカルト。








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