目が覚めるとそこは闇の中だった。
目を閉じても闇、開けても闇。全ての色は黒に塗りつぶされ、自分が何処にいるのか良く理解できない。
身体に圧し掛かるような空気は、目を閉じる前と些かの変化も無い。


(眠っていたんだ…)


人間の身体とは勝手なものだ。如何なる状況であろうと、疲労が溜まれば眠り、空腹を感じれば食べる。
本人の意思とは無関係に、身体は常に生存する為に最高の選択肢を選ぶものだ。
ずる、と引き摺るようにして上体を持ち上げる。顔にかかる髪が煩わしくて払い退けた。
闇に目が慣れると、今自分が居る場所がどこなのか否が応でも思い知らされる。
ここは牢獄だ。


「バージル」


唯一自分が気に掛けるべき者の名前を呼ぶ。その名の主が彼女の唯一で絶対の存在だった。
すぐ隣で服の擦れる音が聞こえる。
そちらに目を向けると、やはり彼は目を閉じる前と同じ体勢で其処にいた。
両腕は吊られ、身体のあちこちに痛ましい傷が見られる。
月の光のようだった銀色の髪は、今は燃え残った灰の色をしており、青い冬の湖を思わせる眼は閉じられていた。

硬い床の上で眠ったためか、身体が酷く痛む。ぎしぎしと、まるで錆びきった機械か何かのようだ。
そろそろと腕を伸ばし、男の擦り剥けた頬に触れる。
ぴく、と閉じられた瞼が動いて、しかしその眼が開くことは無かった。