はひたすらに考えていた。
斬るだの見捨てるだのと散々な事ばかり言っていたバージルが、生きろと言ったその意味を。
それが自分に死んで欲しくないという意味なのか、それとも彼の見えるところで醜悪な死体を晒すなという意味なのか。
少し前ならば、確実に後者だと考えただろう。だが。
(前者なら、)
助けようとしたつもりが、逆に助けられた。
あれから少しだけ、本当に少しだけなのだがバージルの態度が柔らかくなったような気がする。
それどころか、今までは戦闘において全くその存在を無視していたバージルが、一瞬を庇うような動作を見せた。
バージルとの距離は4歩。
は伸びたバージルの影を踏んで歩いた。
やっと上がってきた塔の頂上。
真上に見えるのは、赤黒く渦巻くひかり。禍々しい空気が喉を焼き、息をするのも苦しかった。
あれが魔界、バージルの目指す場所。
まさに異形の棲む場所に相応しい入り口だと思った。
「…最後だ。来るのか」
バージルが出し抜けに言ったことの意味が理解しかねて、の口からおかしな音が漏れる。
「ここをくぐれば後戻りはできん。今ならば間に合う。…お前は、」
「連れて行って。最初に、言ったとおり」
言いかけたその先を遮って、バージルを見つめる。
バージルは、怒ったような困ったような、なんとも微妙な表情をしていた。
「…条件を付けたな。覚えているか」
「足手纏いにならないこと、逆らわないこと、従うこと、泣かないこと」
「付け足す」
すこしだけ蒼い瞳が泳いで、間が流れる。
次にその薄い唇の間から発せられた言葉に、は胸がいっぱいになった。
「傍を離れるな。…死ぬな」
は黙って何度も何度も頷いた。
その理由は前者だ。きっとそうだ。
勘違いだったとしても、そう思っていよう。
いくぞ、と背を向けたバージルの服を掴む。
バージルの足が止まった。
彼はの手を振り解きはしなかったが、振り向くこともしなかった。
「でもバージル、あなたに危険が及んだら、やっぱりわたしは」
「くどい」
くる、と振り返ったバージルに顎を掴まれる。
目の前に蒼が迫ってきて、唇が塞がれて、また解放された。
それは、以前バージルが戯れだといったキスよりもほんの少しだけ長くて、優しかった。
あの時彼の銀髪を照らしていたのは、禍々しい魔界の赤ではなくて、終焉を迎える夕暮れの赤だったのだけれども。
「なぜ」
はいつかと同じように問うた。
バージルは答えずにただを見つめ返し、また背を向けた。
その目が全てを語っていた。
いつか戯れだと言った時には気付かなかったが、あの時も彼の目は確かに語っていた筈なのだ。
きっとそれは、
見破れなかった嘘
(答えなど、既に)