「バージル、あなたがいくところならば、どこへでも」
自分の口から出た言葉の筈なのに、どこか遠いところにいる人が言ったような気がする。
それでいいのか、なんて自問している暇はなかった。
早く、瞬きひとつの間に、息をひとつ吸う間に答えを出さなければ、彼は踵を返してどこかへ行ってしまうだろう。
そこはにはきっと遠すぎて手が届かない。
つまりは、永遠の別れだった。
「どんな形でもいい、連れて行ってください」
だってあなたが居ないこの場所に、居るべき理由が見つからない。
庭に咲く花だって気持ちの良い風だって色褪せてしまう。
世界は、彼がいたから鮮やかだったのだ。それを失うことは死にも近い。
「連れて、行って」
最後の言葉は震えていて、相手に届いたかどうか。
すがるような気持ちだった。
目頭が熱くなるが、雫が零れ落ちないように必死に耐えた。
今までそんなことをしたことなんてなかったけれど、初めては神に祈った。
このひとがわたしを置いていかないように。
この手を離してしまわないように。
(悪魔のことを神に祈るだなんて、なんて滑稽な。だけどわたしはそれにさえ気付かなかった)
目の前の銀髪の悪魔は、何かを考えているのか、暫しを見つめた後、ゆっくりと口を開いた。
「少しでも足手まといだと思ったら、容赦なく斬り捨てる」
「はい」
「お前がたとえ瀕死の重傷を負っても、俺は何一つ関与しない」
「…はい」
「それでも来るか」
「連れて行って」
答えなんかもう決まっている。
それは穏やかな日常との決別。
覚悟はできているか
(理由など、ない)