荒い息をしながら膝をつくバージルの傍にぺたりと座り込む。
どす黒い血の池のような地面が気持ち悪かった。
ただの人間でしかないにも感じられる負の気配が支配する世界。
堕ちてきてしまった、一緒に。
(バージル)
苦しげに肩を上下させるバージルに触れようと腕を上げる。
だがその手が彼に触れる前に、逆に物凄い力で襟元を掴まれた。
「何故残らなかった…」
怒りに満ち満ちた声で睨み付けられる。だが、不思議と恐れはなかった。
憤怒の炎で揺らめく碧眼を真正面から見つめ返す。
彼の腹から流れ出ていた血は止まっている。おそらく傷自体はもう消えてしまっているのだろう。
「血、止まったんだね。良かっ」
「ふざけるな」
荒々しい口調に遮られては口を噤む。それと同時に、腕を引かれて強く抱きしめられた。
驚きに目を見開く。
バージルはそのままの勢いで捲くし立てた。
「何故そうまでしてついて来る」
「分からないのか、俺は負けた」
「力を欲して敗北した!」
「俺は、お前を…」
「いつか、死なせてしまう」
最後の言葉はほとんど消え入りそうだった。
しかし、抱きしめるその腕の力はどんどん強まるばかりだ。
はその背に手を伸ばし、優しく抱き返した。
は理解していた。バージルがどこまでも不器用な"人間"なのだということを。
力を欲したのは護ることの出来なかった過去を悔いてのことだ。
弟の命を奪うことをも厭わないというその手段は賛同しかねるが、それも彼が純粋すぎた故なのだと。
そして、に残れと言ったのも。
どうしようもなく彼に惹かれてならない。
焦がれて焦がれて、一緒にいられないのならいっそその後の全ては必要ないのだと言い切ってしまえるほどに。
「好きだからだよ」
バージルの眉間の皺が深くなり、腕の力が弱まる。は構わず言葉を続ける。
「拒絶するならば今ここで殺して。でも、そうしないのなら、あなたの傍に居ることを許して」
「あなたの傍以外、行くところなんて、」
だから置いていこうとしないで、と言った声はおそらく震えてしまっている。
眼前の景色がじわりと歪むのを止めることができない。
バージルの目に逡巡の色が見て取れた。
しばしの沈黙の後、ゆっくりとその薄い唇が開く。
「…茨の道だ」
「わかってる」
「命を失うかもしれない」
「覚悟の上よ」
「…そうか」
バージルは、抱きしめる腕を離した。
そうして、まだ痛むのか、顔を歪めながら立ち上がる。
グローブをはめた白い手が挙がった。頬に触れた指先は氷のように冷たい筈なのに、そこに熱が集まる気がした。
「ならば誓おう。俺の持ち得る全てを以ってお前を護ると。
……共に来い」
はひとつ頷いて、その手をとった。そのままゆっくりと手を引かれ、顎に手をかけられる。
与えられた3度目の口付けは、今までの中で一番長く温かく甘いものだった。
ようやく、じんわりと胸の内が満たされていく感覚があまりにも幸せで、どうかこの温もりが再び失われることがないようにと、
聞き届けてくれもしない神に祈るしかなかった。
けれども手放すつもりはなく、