ユースタス・キッドって男は、仮装した悪魔みてェな服装や屈強と残忍と暴虐が同居したような外見と裏腹に、その頭の中は至って常識的で、まるで模範的な海兵のような考え方をする男だった。
自分を笑う人間は皆殺しなんてことをしている奴に常識もクソもあるもんかという声が聞こえてきそうだが、少なくともこいつは俺よりも余程"まとも"な考えを持った人間だ。
海賊としてやることはやっても、人間としてオカシイことはしたくない。そんなお上品なお嬢サマみたいな考えを打ち砕いてやりてえと思って近付いたのは、もう何日も前のことになる。


「は、…がっつくんじゃねえよ、耐え症のねえ野郎だな」
「うるせぇ、黙れホモ野郎」


赤い眼が俺を睨み据えて燃えている。
ホモ野郎とは酷ェ言い草だ。もうお前も同じ穴のムジナだってェのによ。
そう言って嘲笑うと、首筋に鋭い痛みが走った。まるで獣みてえな男だ。
無駄な筋肉の乗った背を撫でて、お返しとばかりに耳に噛み付く。呻くような声と共に口の中に鉄錆びた味が広がった。まずくない。


「おれもお前も所詮は頭のイカレた海賊だ。今更真人間ぶってんじゃねえよ」
「テメェと一緒にするな。この変態が」
「その変態に欲情してる奴の言葉とは思えねえな」


ふふ、と笑う声が、汚ェ宿の天井に響く。
ここで何が行われていようと、この宿の店主は口を出さない。たとえここで誰かが殺されている最中であろうと、億超えの賞金首が二人して息を荒げて倒錯的な遊びに耽っていようと、金を払っている間は何をしようと干渉してこない。
だからおれとこいつはいつもこの宿を使うのだ。

ユースタス屋の手が身体を這う感触に背筋が泡立つ。
そんな凶悪な顔をしながら口汚く罵るくせに、まるで処女を相手にするかのように優しい手付きにおれはいつも笑ってしまう。
三億超えの賞金首が、野郎相手に随分と優しいもんだ。






トラファルガーは、頭のイカレた男だ。
どっかの女の腹の中に、頭の大事な部分のネジを一本忘れてきたに違いねえ。いや、一本じゃ済まないだろう。
この男とおれの初対面、こいつの第一声は「なぁお前、おれを抱く気はあるか」だった。
ぶっ飛んだ変態ホモ野郎には関わり合いになりたくねえ。おれはそう言い捨ててまだ始まってもいない縁をバサリと切った。筈だった。
それがいったいどうしてこんなことになったのか、思い出すのも腹立たしく面倒くせえ。


「っ、おい、もういいだろ…入れろよ…」
「がっついてんじゃねぇよ」
「うるせェ…ユースタス屋、入れろ」


パーカーは着たままだが下半身丸出しの格好じゃ、二億の賞金首もただの間抜けにしか見えねえ。
北の海の生まれだとは思えねえ浅黒い肌が、しみったれた暗い宿に融けそうに見えた。
刺青の入った手がおれの身体をぐいと押して距離をとる。
入れろと言ったり離れろと言ったり忙しい野郎だ。

トラファルガーは足を開いてまるで見せ付けるように自分の前を扱いて見せた。
男の自慰なんざ見ても面白くもなんともねェよ。
そう吐き捨てるのを聞いているのかいないのか、お構いなしにトラファルガーはおっ勃てたそれを扱いて、下唇をねっとりと舐める。扱いてねえほうの手でパーカーの下の身体を撫でて、それからさっきから入れろ入れろといっていた場所にこれ見よがしに指を入れて見せた。
半分イッちまったような目が、挑発的に睨んでくる。


「テメェ…どうしようもねぇ変態だな」
「ストリッパーも脱帽の色気だろうが」
「ほざけ」
「なァ、ユースタス屋…やろうぜ」


濡れきった掠れた声が呼ぶ。
おれは、おれよりも随分華奢で色の黒いその男の身体を力任せに引き倒した。






白い首にしがみ付いて、遠慮もクソもかなぐり捨てて喘ぐ。
常識人の仮面を脱ぎ捨てておれと同じところまで落ちかかっているユースタス屋をさらに引きずり込むように、首に捕まった。口の端から液体が流れてきているような気がするが、そんなことにはもう構っていられねえ。気持ちよければあとは何でも良かった。
後穴で音を立ててんのは、ローションとおれから分泌されたものと、それからユースタス屋が遠慮なしにぶちまけてくれた精液だ。


「気持ちい、ユースタス、屋、っでけェ」
「そりゃ、良かった、な」
「あ、やべ…っ、…そこ、まじやべェ」


ずるずると内臓を引きずり出そうとするユースタス屋の耳元で、ただひたすら声を漏らす。おれは当然ユースタス屋と違ってこいつが初めての"男"ってわけじゃねえが、こいつほどおれと上手い具合に合う男は初めてだった。
赤い髪に指を差し入れて、耳元に「もうちょい、手前」と催促すればユースタス屋は馬鹿正直にそれに答える。とんだ真面目なイイコチャンだ。

ユースタス屋が、顎を掴んで口付けを寄越す。まるで恋人ごっこだ。
抱く相手にはこうしてやるのがセオリーだとでも思っているのか、と心の中で笑う。
キスはあまり好きじゃねえが、ユースタス屋のは不思議と嫌じゃなかった。


「何笑ってやがる…」
「お前のこと、考えてた、んだよ」
「なんだと」
「っ…、前触れよ、」


腰に回っていたでかい手を引っ掴んで、ユースタス屋とおれの腹の間で揺れてたそれを無理矢理握られた。ユースタス屋は一瞬嫌そうに顔をしかめたが、そのままおれの望むとおりのことをやった。
燻ってたものが一気に押し上がって、背筋がしなり、熱は呆気なく外に出る。


「…ハ、何回目だよ、この早漏野郎」
「うるせェ、お前、も早くイけ、不感症が」
「吼え面かくなよ」
「…ぐ、ああっ!」


男とヤるなんざ御免だ、そう言っていた"自称マトモ"なユースタス・キッドが、マトモじゃねえおれのケツを掘って眉皺を寄せてるなんて、最高に笑える話だ。
そんなユースタス屋を嘲笑いながら死ぬほど感じている自分も、相当笑える。
此処には今誰一人としてまともな人間なんざいやしねえんだ。





正気と狂気の境目に





まともな男は、そもそも海に出たりはしねえのさ




(091119)