「ねーキッド、あたしたち廃人だよ」

久し振りの連休。久し振りのおうちデートでわたしたちがしていたことと言えば、なんとゲームだった。しかもDS。同じ部屋で、DSだ。やっているのが同じタイトルのゲームであることが唯一の救いかもしれない。いや、この場合これは何の救いにもならないけれど。
キッドは意外にもゲーム好きらしく、新しくて話題に上がっているゲームなんかは大抵の知らないうちに手を出して発売後すぐにクリアしてしまったりしている。
そんなキッドに影響されてもゲームを始めてみたはいいものの、何せゲームなんて有名な髭親父が姫を助けに行くあれと格闘系しかやったことのないにとっては、RPGなどはほとんど未知の領域だ。


「あー…」
「外、出ない?」
「あぁ」


キッドは、手本のような生返事を披露してくれた。
キッドがゲームに夢中なもんだからもゲームを始めたはいいものの、流石にこの状況はないだろうと思い携帯できるサイズのそれをぱたんと閉じて、ベッドの上で無心にボタンを弄っているキッドにちょっかいをかけた。


「キッドくーんもしもーし」
「んだよ」
「お外出ましょうよー」
「終わったらな…」


あんまりにも夢中になっているもんだから、ベッドの上で胡坐をかいているキッドのシャツを捲って、お腹に触った。
キッドのお腹は無駄に鍛えられていて、そのへんのボクシング部なんかよりもずっと立派な身体をしている。
いつもなら「何すんだやめろ」とすぐにお叱りが飛んでくるのだけれども、よっぽど大事な場面なのか、キッドは何事もないような顔をして画面に目を向けていた。

あんまりにもそれに夢中になっているもんだから、一体何の場面なのかと気になっては画面を覗こうとした。けれど光の加減で、どうにもよく見えない。
そのうち苛々してきて、は最も画面が見やすい位置を陣取ることにした。


「お邪魔しまーす」
「おい!」
「だってあたし見えないじゃん」
「お前が見てどうすんだ」


一番見やすい位置、すなわち、キッドとDSの間に無理矢理身体を捻じ込む。
キッドは嫌そうな顔をしたけれども気にしない。そのうち彼も諦めたのか、を抱きしめるように腕を回してゲームを再開した。
としては、抱っこしてもらってるこの体勢に非常に満足だ。


「お前頭動かすな、くすぐってぇんだよ」
「まぁまぁ」
「まぁまぁじゃねぇ」


こちらが頭を動かすと、髪の毛が当たってかゆいらしく、キッドはひたすら文句を言っている。納まりが悪く苛々するのか、を抱え直したりと忙しい。
ゲームのなかでは主人公の一団がどこかのボスらしき敵と戦っていた。
ゲームの主人公の名前はキッド。ヒロインに位置する女の子の仲間キャラの名前はだ。これを命名したのは勿論だった。


「キッド、あたし死にそうになってる」
「弱ぇからな」
「助けてよ」
「死んでから生き返らせる」
「死ぬ前に助けてよ」
「うるせぇな」


画面をつついて回復を促したり、余計な茶々をいれているうちに、主人公の一団がどんどん追い詰められていく。


「ねえ、死にそうだよ」
「お前がうるさいからだ」
「キッドが弱いからだよ」
「ちょっと黙ってろ!」
「あ、死んだ」


つうこんのいちげき!
キッドは しんでしまった!

という無慈悲な文字と共に、画面の中でキッドが死んだ。ちなみに画面のなかのあたしもとっくに死んでいる。仲間のうち2人を失ったことで形勢は完全に崩れ、画面の中の勇者様御一行はあえなく悪の手によって滅ぼされてしまったのだった。


「っだークソッ!」
「死んだー」
「お前が邪魔するからだろ」
「ひとの所為にすんな」


キッドはようやく諦めたのか、ぱたん、と黒いそれを閉じてベッドの上に投げ出した。
ようやくゲームから意識の離れたキッドに内心ほくそ笑みながら、身体を反転させてキッドに向き直る。
そのまま太い首にぎゅううとじゃれついた。


「一体何なんだお前は…」
「こっちの台詞だよせっかくのお休みなのになんなの一体!」
「ちょっとくらいいいだろ」
「ちょっととか言ってほっとくと夜までやってるじゃん!」
「うるせぇな、止めただろ」
「おーそーいー!」


抱きしめたまま、ぐい、とキッドを押し倒す。
たいして横幅のないベッドでいきなり押し倒されたキッドの頭は、ごん、といういい音を立てて壁にぶつかった。


「いってぇ!何しやがる!」
「天罰!」
「天罰じゃねぇだろ!」
「体罰!」
「ふざけんな!」


怒ったキッドとベッドの上でもみくちゃになって、布団も枕も髪もぐちゃぐちゃにされたあと、小さく呻きながら「構ってよー…」と呟く。
同じく髪の毛もシャツもぐっしゃぐしゃになったキッドは、溜息をつきながら「構ってんだろうが」とぼやいた。


「こういう構ってじゃなくて」
「じゃあこういう構ってか」
「変態!」


する、とシャツの裾から侵入した大きなごつい手を叩く。
悪びれもしないキッドはそれでも侵入をやめない。


「お出かけしようよ!」
「終わったらな」
「終わったら寝るじゃんキッド!」
「あァ寝るな」
「だからお出かけ!せっかくのお休みだからどっか連れてって!」


ぶうぶうと文句をいいながら、圧し掛かるキッドの胸を叩き捲る。気分は連続多段ヒット攻撃だ。


「どっか行こうよ連れてってよー!」
「安心しろ、天国連れてってやる」
「…意味不明だしもー!」


ここぞというときのキッドの低い声は卑怯だ。
がどうしても抗えないと知っていてこういう声を出すキッドは、あのゲームの中のボス敵よりも性質が悪い。

「いいから黙ってろ、…」

熱い舌がべろりと耳をなぞるのを感じながら、ぼんやりとこんなことを思う。





つうこんのいちげき!





「…は死んでしまった」
「は?何言ってやがる」
「なんでもない…」
「…痛恨の一撃が欲しいなら今すぐくれてやるよ。天国いきてェんだろ?」
「い、いらない!」






(090921)