青い海の彼方に消えていく街を見ながら、は溜息をついた。
信じられない気持ちでいっぱいだ。
つい数日前までは、あそこで終わりの見えない野菜の皮むきをしていたのだ。
それなのに今は、あの街で一番嫌われていた海賊の船に乗って、こうして潮風を浴びている。

船の上に掲げられているのは、不吉なジョリー・ロジャー。

は晴れて、このキッド海賊団の食を預かるコックとして船に迎えられた。
なんといっても海賊船だ、さぞかし怖いお兄さんたちがを洗礼だとか言いつつボコボコにするために待ち構えているのだろうとビクビクしていたのだが、現実はの予想とは違っていた。
恐ろしげな海賊も、こうして内側から見ているとなんのことはない。
もちろん怖いひとたちだって居るけれども、基本的には気の良い連中の集まりだった。

いったいどんな食生活を続けていたのだろうか、は予想よりもずっと船員に歓迎されているようだった。
「これで毎日人間の飯が食える!」と万歳の手を挙げたひとも居た。…本当に、いったいどんな食生活をしていたのだろう。


消えていく街を見ながら、欄干に肘を付く。
ぼうっとしていると、例のあのドレッドが話しかけてきた。
いつ見ても、呪い人形みたいな顔をしている。


「おい、今日の新聞見たか」
「え?」
「ほらよ。連中、こういう仕事だけは馬鹿に速いらしいな」


ぽい、と投げて寄越された新聞。
WANTED!と書かれた手配書のちらしのようなものも、一緒に挟まれていた。
その一枚を手にとって、は死ぬほど驚いた。

デッド・オア・アライブ。生死を問わず。
そう書かれた薄茶色の手配書に載っていたのは、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにした、自分の顔だった。


「ひ、ひどい…」
「最初の金額はそんなもんだろ」
「こんな写真撮らなくたって…!」
「…そっちかよ」


これが、世界に出回るのかと思うと涙が出て来る。
もっとかわいく撮って欲しかった。
しかもさらに、その下に書かれた懸賞額に驚いて叫んでしまう。
横でドレッドが耳を塞いでいた。


「じゅ、15万ベリー!?」
「雀の涙くらいの額だな」
「す、すごい。お給料3ヶ月分…」
「…お前の給料いくらだったんだ」
「住み込みで生活費無料だったから、月5万…」
「……そうか」



自分の残念な顔の載っている手配書を握り締めながら、これはもしかしたら強い賞金稼ぎが大金となるの首を狙いにやってくるかもしれないと本気で焦った。
どうしよう!とドレッドの裾を握って訴えると、彼はなんだか可哀想なものを見る目でわたしを見てきた。


「なに騒いでやがる…」


余程がうるさかったのか、いつの間にか現れたキャプテンが後ろで不機嫌そうな顔をしていた。


「ちょっとは黙れ」
「だってキャプテン、あたし賞金稼ぎに狙われちゃうかも!」
「誰がテメェみたいな雑魚狙うかよ」
「だって15万…!」


そう訴えると、キャプテンすらなんだか残念そうなものを見る目でわたしを見たあと、踵を返してしまった。
その背に向かって、ドレッドが一枚の手配書をひらひらと示す。


「キッドの頭ァ!また上がってますぜ」
「だからどうした」


大して頓着もしていない様子で、キャプテンはそのまま船室に戻ってしまった。
ドレッドがため息をついて、「ん」とその紙をこちらに寄越す。
その薄茶色の紙に写っていたのは、ユースタス"キャプテン"キッドという名前と、それから極悪人の笑顔を浮かべるキャプテンだ。
これを見せてどうするつもりなのか、と目でドレッドに尋ねると、彼は「懸賞金額見てみろ」と言った。

言われて、まずはその額の桁を数える。


「一、十、百、千、万、十万、百万、千、万…いち、お、く…」
「な、15万は雀の涙っつったろ?」
「え、え、えええ!?うそお!?」


ぐしゃっと紙が歪むほどの勢いでそれを握り締め、何度も何度も確認する。
それは、が口に出したこともないような額の懸賞金額だった。


「まあ、頑張りな。15万のコックさんよ」


驚きに固まっているの頭を、ドレッドがぽんと叩いて戻っていった。


空は快晴。
視界に見えるのは、青い空と青い海。
一面全てが青に包まれた世界で、これからは父と自分の夢の海、オールブルーを探しに行く。

…でも、父さん。
あたしなんだか、すごい海賊の船に乗っちゃったみたいです。





colore della speranza





fin


(090922)