!この大馬鹿野郎が!」


大佐に出会って一番最初に貰ったのは、その怒声と、脳天への拳だった。
この歳になって、こんな拳骨を食らうことになるとは思わなかった。
しかも、真昼の往来で。

もうひたすら謝るしかない。非は全面的ににあるのだから。
他のクルーも、大佐のあまりの剣幕に苦笑いだ。ここまで怒られると、これ以上叱るのが哀れになってくるのだろう。大佐以外のクルー達は、呆れ顔で逆に慰めてくれた。

次の島へのエターナルログポースを持っているとかで、食料や水の補給を済ませたらすぐに出航する、と触れが出た。
気に掛かるのは、ローのことだ。彼らは無事に出航できているのだろうか。
モタモタしていると、大佐の船が追いついてしまう可能性がある。
表の港に船を止めるような愚は冒さないということなのか、ロー達の船がいったいどこに停泊していたのか、ついぞには分からず仕舞いだった。
そんなことを考えながら、ふと、可笑しくなった。
は海軍で、彼は海賊だ。海賊の心配をする日が来るなんて、思ってもみなかった。

昨日島を襲った海賊達も、無事に収容された。
まさかひとりでやったわけじゃねぇんだろう。そう言いながらも、大佐は詳細を尋ねようとはしなかった。有難いような、聞いて欲しいような、複雑な気持ちだ。





「おい、何さぼってやがる…」
「ひっ」

海を眺めながら物思いにふけっていると、後ろから鬼よりも恐ろしい大佐の声がかかった。
全員に大変な迷惑をかけておいてその上さぼっただなんて、海に突き落とされても文句は言えない。
すいませんすいませんと平謝りで頭を下げる。また拳骨が飛んでくるのではないかと思って身構えたが、大佐はたくさんの煙草を蒸かしながら、の隣のベンチにどっしりと腰掛けた。


「俺も休憩だ」
「はぁ…」
「誰かのせいで最近忙しかったからな」
「スミマセン…」


正直、煙が喉をものすごく刺激してきたけど、文句を言うこともできずその場で項垂れる。
大佐はまた新しい煙草に火をつけながら、煙を吐き出した。


、てめぇ変わったな」


出し抜けに、大佐はそんなことを言った。
予想もしなかった言葉に思わず咳き込む。半分以上は大佐の煙のせいだったが。


「そ、そうですかね」
「あァ」
「…」


大佐はそれ以上何も言わなかった。
大佐がぼーっと空を眺めているから、も同じようにぼうっと眺めた。


「大佐」
「あぁ?」
「海賊も悪い奴ばっかりじゃないんですね」
「馬鹿言うんじゃねえ」
「わたしもっと頑張って強くなります」
「…なんだ藪から棒に」


ふん、と大佐が鼻を鳴らした。
空は高く、いい天気だ。絶好の出航日和だろう。


目つきの悪い海賊は、これからもにやり笑いで悠々と航海を進めるに違いない。
あの海賊を思い出すと、胸が熱くなる。こんな気持ちははじめてだ。
ローが海賊であり、が海軍である限り、おそらくまたきっと、どこかの海で出会うのだろう。

さてそのときに勝者となるのは、か、それとも…







Shambles!







「……てめぇ、この6日のうちに男作りやがったな」
「…へっ!お、おお、おとこ!?つ、つくってないですよ!」
「じゃあその首はなんだ」
「え?え?………!ちがうんです大佐、これはわたしが悪いわけじゃないんです!」
「わかったわかった」
「ちがうんです大佐ぁあ!!」






fin




(090915)