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一体幾夜が過ぎたのだろうか。ここでは時間の感覚などとうに失われてしまっている。 突然、今まで眠り続けていたバージルの目が開いた。 驚きと同時に、歓喜が渦を巻いて身体中を駆け巡る。 だが一瞬の後、違和感に気付いた。 開かれた目。 氷の青はどこにも無かった。 代わりに、そこに煌々と輝いていたのは、いつか見た魔界の空と同じ赤。 「バージル…?」 呼ぶ声にも何の反応も示しはしない。 そう、と手を持ち上げて触れようとしたその寸前、今まで辺りを覆っていた闇が突然切り裂かれた。 否、切り裂かれたのではなく、白い光が差し込んだのだ。 常闇の夜のような牢獄に差し込むその光は、あたかも天界からの慈悲のようだった。 いつか、遠い過去に聞いた言葉を思い出す。 曰く、悪魔が神のように美しい姿を取り人を惑わすことは珍しいことではないと。 バージルの赤い目は、白い光のその先をひたと見据えている。 も同じようにそちらへ顔を向けるが、あまりの眩しさにとても目を開けてはいられない。 『答えろ、名は』 唐突に、頭の中に直接響く鐘のような声が聞こえた。 バージルの口から、酷く切羽詰ったような、苦しげな息が漏れる。 何かに抵抗しているような荒い息遣い。激しく上下する胸、滝のような汗。 なにか大変な異常が起きていることだけは分かった。 だがどうすることも出来ない。 赤い目がちら、とこちらを見て揺らいだ。 『名は』 もう一度、声が問うた。 バージルの呼吸が、徐々に穏やかになっていく。 ゆっくりと一度瞬きをして、見開いた目はもう揺らいではいなかった。 「ネ、ロ、アンジェ、ロ」 バージルの口から出た答えは、が聞いたことの無い言葉だった。 |