「…なんのつもりだ」
声に怒気がこもる。こういう聞き方をすれば、この娘が萎縮するばかりだとわかっていても抑えられなかった。
は右腕を押さえて俯いたままだ。
その腕からはぽたりぽたりと、止め処なく赤い液体が流れ落ちていく。
「」
さらに強い口調で問い正す。の唇は、きゅっと結ばれたまま開かない。
の気配が近くに無いことに気付いた。
思考の海に沈んでいた所為か、いつ離れたのか気付かなかった。
いちいち気になどしなくとも、はいつも黙って後ろをついてきている。
そう思って、油断していた。
だが塔に踏み入り悪魔としての感覚が鋭敏になったバージルにとって、人間ひとり探すことはさほど難しいことではなかった。
見つけた時には、は右腕に鋭い切り傷を負って蹲っていたのだ。
傍を離れひとりでふらふらと歩けば、悪魔が襲ってくることなど目に見えている。
そして自身、脆弱な人間の身でそれに立ち向かうことなど出来ないことは解っていた筈だ。
それなのに、何故。
「…あのひと、」
眉根を寄せてを見る。その表情から、あのひと、とは誰のことを指しているのかがわかった。
もうひとりのスパーダの血族。バージルと同じ顔を持つ弟。
「バージルが、あのひとと戦わなくて済むように」
「わたしが、行こうと思ったの」
でも、辿り着く事すら出来なかった。
そう行って、はまた下唇を噛み締める。
バージルはこめかみを押さえて溜息をついた。
「…馬鹿な」
なんという愚かしい行動。
たとえ不完全で荒削りだとはいえ、悪魔、それもスパーダの血が流れるあの男に勝てるとでも思ったのだろうか。
万にひとつも有り得ない。
バージルは靴音を響かせて、の傍へと近寄った。
そして、赤い血の流れる右腕を、その傷もろとも思い切り掴んだ。
の口から悲鳴が漏れる。汗が額を伝って、落ちた。
「死にたかったのか」
掴む力を強めながら問いかける。
一歩間違えば簡単に命を失ってしまう場所に居るのだと、なぜ理解できない。
どこまで愚かなのか。
「命なんて、惜しくは、」
荒い息の間に聞こえるの声は震えていた。
恐怖ではなく悔しさ故に。
自分の為に命を投げ出すことすら惜しくはないと言い出す娘に猛烈に腹が立って、バージルは突き放すようにその腕を解放した。
そんなことをさせたいわけじゃない