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背に落とされる唇は冷たく、は身体を仰け反らせた。 いったいどれ程の時間が経ったのか。縛られた手首は鬱血し、もはやその先の感覚は無い。頭は朦朧として、しかし身体は与えられる刺激に面白いように反応した。 滑稽だと思う。這い蹲るようにして、こんな姿を晒して、それをも厭わずに声を上げる自分が。 「」 低い声が耳元に響く。それだけで震える身体を止めることは出来なかった。 後ろから回された手が荒々しく胸を掴む感触に喉が鳴った。 遠くから卑猥な水音が聴こえてくる。突き上げられる度に、まるでどこかの猫のような鳴き声がした。 それが自分の喉から出る声だと気付いて、煩わしさにシーツを噛む。 「抑えるな」 熱の篭った、だが余裕のある声が命じる。常であれば逆らうことの出来ないその声。 しかしもはや正常の思考など残っていないは、一層強く顔をシーツに押し付けて拒否した。 「」 少しだけ強い口調で名前を呼ばれる。打ち寄せられる波は止まらない。 ち、と小さな舌打ちが聞こえたかと思うと上半身を持ち上げられ、さらに無理矢理に体勢を変えられる。 丁度、バーシルの上に向き合って座っているような状態。 「お前の声が聞きたい」 抑えを失って、声は止め処なく外へと流れ出た。 先程よりも深くに届く感覚に溜息が漏れる。支えが欲しくて、縛られた両手をバージルの首の後ろに掛けた。 最早こんな拘束などは必要なかった。には抗う気など砂粒程もなく、あるのは更なる快楽を求める従順な心だけだった。 唇が触れ合うほどに身体を密着させてバージルの瞳を見る。 はこの目が好きだった。この瞬間、バージルが自分を求めるこの瞬間。荒々しく艶かしく自分だけを見る、昏い欲望に濡れたこの一時の目が。 バージルの中に潜む獣が唯一姿を現すその瞳が、の心を狂わせ身体をめちゃくちゃに荒らしていく。 食われてしまうと思う。食われてしまいたいと思う。その牙が皮膚を破り、その喉がわたしの魂と一緒にこの流れる血を喰らうことを望んでいるのだ。 「バージ、ル、すき」 口をついて出た言葉。その言葉に答えることはせずに、バージルは動きを速めた。 ぼう、と天井を眺めているとバージルが手首に食い込んだ布を外し始めた。 ああそういえばそんなものも付いていたな、と他人事のように赤紫色に変色した箇所を眺める。 先程まで狂気と情欲に塗れてを見つめていた瞳は、今は凪いだ海のいろをしていた。 残念だなと小さく息を吐く。彼の中のあの獣は、身を潜めてしまっている。 ふと、バージルがその手首を攫った。 「痛くはないのか」 「痛いよ」 さほど心配している様子でもなく、ただちょっと聞いてみただけ、という調子。 変色した手首を擦って、消えないなと呟く。 当然だ、わたしは人間で、人間の傷や痣はそうそう簡単に消えるものではない。 「バージルと一緒にしないで」 そうだなと小さく言って、彼は痛々しいわたしの手首に口付けを落とした。 その唇が手首から腕を上がって肩、鎖骨までを掠めるように撫でる。 くすぐったくて身を捩ると、首筋にちくりを痛みが走った。 「ねえ、すき」 唐突に言いたくなった。バージルが暫くわたしの顔を見つめ、何かを言おうと口を開く。 その言葉が音になる前に、距離をつめてその薄い唇に舌を這わせた。 「」 ちり、と青い瞳に火か灯る。 身体を這い始める手と口腔に侵入する温かい舌を感じながら、はまたあの獣が目を覚ましたことに歓喜した。 冷たい青、そのなかに はあなた |