そして私は空の世界
で息をする



ばん、と音がする程に強く壁に押し付けられ、は痛みに顔をしかめた。
目の前には青い目をした悪魔がひとり。
押し返そうとその逞しい胸に手をおいて突っ張るが、逆に両手共に捕らえられ頭上で一纏めにされる。
いつもは後ろに撫でつけられている銀色の髪が、乱れきっていた。

「バージル、髪ぐしゃぐしゃだよ」
「お前がやったんだろう」

バージルの指先が頬を撫でる。
それからはだけたシャツの首筋、胸の間を通って腹部を下り、ちょうど臍の下辺りで止まった。



耳元で呼ぶ声は、いつもと変わらない。だか、その奥に燻る何かを感じては顔を逸らし身を捩った。
心臓が早鐘のように鳴っている。
バージルの、喉の奥で笑う声が聞こえたと思ったら、顎を掴んで無理矢理に前を向かされた。
合わされた視線に、ごくりと喉が鳴る。その様子を見て、バージルの口角がわずかに上がった。

「……いい眺めだな」

その言葉に、体中がかっと熱くなるのを感じた。
胸元に散る赤い痣。散々抵抗したが半魔の力を抑えることなどできる筈がなく、わずかな抵抗の証としてその銀髪をぐしゃぐしゃに混ぜてやった。

「悪魔」

かすれた声でそう言ってやると、バージルは面白そうに目を細め、当然だ、と返した。
ゆっくりと近付いてくる整った顔に目を瞑ると、唇をなぞるように舐められた。
目を開けろ、と囁く声にうっすらを瞼を開けると、次に噛み付くようなキスを。
愛しい青い悪魔の舌が、歯列をなぞって口内を蹂躙する。
はあ、と溜息にも似た声が漏れ、全身の力が抜けてしまう。
いつもこうだ。所詮にこの悪魔に勝つことなどできはしないのだ。

くたりと力の抜けたの膝を割って、バージルは脚の間に体を滑り込ませた。
ずくん、と腹の底が疼くような感覚を覚える。
この先何が起こるのか知っている。そうして、それを望んでいる自分がいることも。
ならばどうしてこんなにも抵抗するのか。
このまま流されてしまえばいいものを。

「……!」

バージルが眉根を寄せて体を離した。
その唇に流れる朱。
は、してやったりという顔で微笑む。
こんな傷などすぐに塞がることは分かりきっている。だが、他のどんな悪魔も傷一つさえ付けることの出来ないこの半魔の不意と衝けたことに、不思議な昂揚を感じた。

「捻じ伏せられて強引に犯されるのが望みか」

ゆっくりと血の付いた唇を舐めながら言う、静かな声。
拭い取られたそこには、もう傷跡さえ残されてはいない。
バージルの言葉はいつだってシンプルだ。わたしの心を完全に暴いてしまう。
求めているのに求められているのに抵抗するその理由。
そうだ、気付いていた。

わたしは、このひとに        


「ならば、望みどおりに、」


布の裂ける音がした。
ああ、もはや全ての抵抗は無意味。