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はボーッと天井を見ながら、どうしてこんなことになったのか考えてみた。 季節のせいか。昨日食べた魚料理が悪かったのか。それとももっと他に何か… 考えても考えても答えなんて見えてきやしない。 ただひとこと、言えることは。 やってしまった。 まあ何ていうかつまり、ていよく頂かれてしまったわけだ。 「ねー、一体どうしてこんなことになったんだろうね」 出した声は随分擦れてしまっていた。肺から気道を通って空気が外に出る。 そこで初めて、は自分が喉が渇いているということに気が付いた。 弾んだ息はまだ整わない。 先程のことは無かったかのように平静を保っている、自分の上にいるこの男が憎らしい。 「こんなこと、とは?」 「いや、だからさ。こういう事態のことさ」 上に圧し掛かってる男、バージルは意味がわからないという顔をしている。 が大きなため息をつくと、その銀色の眉毛がぎゅう、と寄った。 「お前が誘ったんだろうが」 「うん、いや、そうなんだけどね…」 ごもごもと口が動くがうまく言葉にならない。 そんなまさか、自分の色気も何もない誘いにバージルが乗ってくるなんて想定外もいいところだ。 もしかして気が付かなかっただけで実は両想いでした、なんて都合の良い夢を見れるほど自惚れちゃいないつもりだ。 たぶんバージルにとっては深い意味なんて何も無いに違いない。 責任とってよ、なんて陳腐な常套句が通じるはずも無し。 (あーあ…) バージル越しに見える天井は高くてくすんでいる。 ラッキーなのかアンラッキーなのか良く分からない展開になってしまい、は途方に暮れていた。 そりゃあ最初に(冗談とはいえ)誘ったのは自分だが、それは軽くあしらわれることを前提にしたものだった。 こんな展開になるなんて。 「おい」 「なーにー」 「顔が変だぞ」 「悪かったわね!」 元々見れたもんじゃないのにそんな表情をしていては目も当てられない、とかなんとか失礼極まりない事を言うバージルの頬に一撃食らわせてやりたいところではあるが、後が怖いので自粛した。 だいたい、そんな変な顔の女に手を出したのは誰だ。 「普通さ、こーゆう時ってもっと甘い言葉を吐くもんなんじゃないの」 「吐くなどと言ってる女にそんな言葉は必要無い」 不満たらたらに抗議の視線を送るが、バージルはさらりと無視した。 「…そんなに嫌だったなら、言えば良かっただろう」 「途中で言えばやめましたか」 「冗談じゃない」 「やっぱね!」 もういいよ、と口を尖らせては身体を反転させた。バージルはまだ上から退かない。 やることやったんだから、とっととどこかへ行ってくれれば良いのに。 そうでないなら、愛の言葉のひとつやふたつ囁きやがれ。 枕に顔をうずめて不貞腐れていると、背骨に沿って冷たい指先が背をなぞった。 思わず「ぎゃっ」と声を出すと「色気のかけらも無い女だな」と言われちょっと泣きたくなった。 「…」 バージルの、自分を呼ぶ声と吐息が肩に当たった。ぞく、と身体の奥が震える。 冷たい指先は、背にかかる髪をするするとかき分けながら肩の線をなぞり、腕を通って、枕を握り締めるの手首を捕らえた。 「、こっちを向け」 「冗談じゃない」 先程のバージルの声色を真似ると、バージルがちょっと怒ったのが分かった。 バージルが怒ると、空気がピリッとする。 内心冷や汗ぐっしょりだ。 「……そんなに、嫌だったのか」 力任せに仰向けにさせられるのかと思いきや、降ってきた言葉はバージルらしからぬものだった。 は心の底から驚いた。 これではまるで、まるで、 (あたしに拒絶されて、落ち込んでるみたいじゃない) そんな馬鹿な。ありえない。いやいやしかし。 あのバージルが!いや、でも… 枕にうずめた顔が、知らずにニヤけ顔になる。 「何を笑っている」 の異変に気付き、バージルの声はかなり不機嫌な様子だった。 「なんでもないよ」と枕に顔を埋めたまま平静を装い返事をしたが、当然バージルにそんな嘘が通じる筈もない。 しばらく背中に視線を感じていたが、ふとバージルが首に顔を近づけてきた気配がした。 なんだろうとそのまま黙っていると、 がり と勢いよく噛み付かれた。 「いっっっっ!!!」 バージルの犬歯は普通の人間よりもちょっと長くておまけに鋭い。 それが彼の父親からの血によるものなのかどうかは定かではないが。 その牙に、思い切り噛み付かれた。痛いなんてもんじゃない。 肉が食い千切られるかと思った。 は涙目になって、勢いよく身体を起こした。 「あんたね!あたしを殺すつも…っ」 大音量の抗議スピーチは、これまた噛み付くようなバージルのキスによってあっさり遮られた。 がぶ、と食べられるような口付けに手を突っ張って抵抗するが、効果はゼロだ。 ぬるりと滑り込んできた舌は、の舌を攫って蹂躙する。 口の粘膜と舌が立てる音と、たまに歯があたる硬質な音が耳を支配する。 ちゅ、とわざとらしい音を立てて唇が離れるころには、の息は完全に上がっていた。 「嫌だったのか」 「は?」 「俺に抱かれるのが嫌だったのかと聞いている」 「や、それは…」 「どうなんだ」 「ええと、その…」 「嫌なのか嫌じゃないのか」 「えーー……と、」 「はっきり言え」 バージルはいらいらとの耳を引っ張った。 バージルにとっては軽い戯れのつもりなのだろう。 だがしかし、そこは人間と悪魔との差である。にとっちゃ耳がもがれるかと思うほどの痛みだ。 「痛い痛い嫌じゃないですほんともう嬉しすぎて涙出る!」 ぱ、とバージルの手が離れ、は今まで引っ張られておそらく赤くなっているだろう自分の右耳を押さえた。 こんちくしょう、出て行ってやる。 じゃないといつか本当に腕の一本や二本もぎ取られてしまう日が来てしまうだろう。 「最初から素直にそう言えば良い」 「何が素直によ、無理矢理言わせたくせに痛い痛いすみません!」 またしても引っ張られた先程とは反対側の耳を押さえながら、は心の中で毒付いた。 これ以上抵抗してもまた痛い思いをするだけだろうから、バージルの腕が腰に回って、そのまま引き倒された時も抵抗はしなかった。 バージルは腕の中にを抱きかかえたままごろりと横になり、満足げに息を吐いた。 その自由気侭、我儘勝手な様子が猫みたいだと思ったけど口にはしなかった。 「こういうことは、愛し愛される相手としかやらないと決めてたんだけどな…」 「何を言っている?これ以上頭が悪く見えるような発言はやめておけ」 「む、むかつく…」 「それに、いつ俺がお前愛していないと言った。どうでも良い女を相手にする程飢えてはいない」 の頭が一瞬真っ白になった。 今なんといった?なんだって? 「ちょ、今、え!もう一回言って!」 「二度は言わん」 しつこく食い下がって聞くと、「煩い」と今度は思い切り鼻をつねられた。 本気で鼻の軟骨が折れたと思った。 非難とか恨みとか(ついでに愛しさとか)、その他もろもろの感情を込めて、半分涙目になって見上げたその先には、実に満足そうな顔をした悪魔が居た。 *・゜゜・*:.。.:*・゜口付けメロウ*・゜*:.。..。.:*・゜゜・*:.。. |