ぎり、と締め付けられるような痛みに目を覚ます。
ゆっくりと瞼を開けると、煤けた天井が目に飛び込んできた。
一体自分はどうなったのか、一瞬の混乱の後、状況を確かめるべく首だけを動かして周囲を見回す。
どうやら、が寝ているのは簡素なベッドであり、部屋には窓ひとつなく壁にひとつの蝋燭が灯っているのみで、今は昼か夜かもわからない。
更によく確認しようと、上体を起こそうとして、ふと手首と首元に違和感を感じた。
「なに…」
黒いベルトのようなものが、首と手首に巻かれており、さらにそのベルトには太い鎖が付けられていた。
手首の鎖はそれぞれベッドの上隅に繋がっており、試しにぐいと引っ張ってはみたが外れる気配すらしない。
まるで昆虫標本のようにベッドに縫い付けられている状態。
の胸が早鐘のように鳴り始める。どうしてこんな状態になってしまったのか全く記憶はないが、尋常な事態ではない。
「冗談でしょ」
がちゃがちゃと重い音を立てながら、手首からベルトを外そうとする。
無理矢理に手を引き抜こうともがくが、皮膚が擦り切れる感触がするだけで一向に外れてはくれなかった。
それでも苛々と鎖を鳴らしていると、不意によく知った声が耳に飛び込んできた。
「無駄だ」
先程まで、確かに部屋の中にひとの気配はしなかった筈だ。
しかし、この声の主ならば驚かない。は安堵のため息を漏らして、声のする方へと視線を動かした。
「バージル」
蝋燭の炎が揺れて、彼の端整な顔に落ちる影も同じように揺らめく。
暖かい橙色が銀髪に反射して見えた。
「これ、何なの?いたい、外して」
じゃら、と音を立てて腕を動かす。早く、と急かす様にバージルを見遣るが、彼は壁に凭れ掛かってこちらの様子をしげしげと眺めながらそれでも動こうとはしなかった。
その身に纏う、いつもとは違う異様な空気に気付く。
最初こそ近付けば切れるような空気を纏っていたバージルだったが、共に暮らすようになって、想いが通じてからは少なくともに向かっては柔らかい雰囲気で接するようになった。
だが、今のバージルはまるで、出会った当初に戻ってしまったかのようだ。
「どうし、た、の」
恐る恐る口を開いて尋ねてみるも、バージルは眉ひとつ動かそうとはしない。
ただじっと、の身体をまるで品定めでもするかのように見ているだけだ。
「ずっと考えていた」
重く圧し掛かるような沈黙の後、ようやくバージルが口を開いた。
「いつ逃げ出すか分からない人間を、ずっと己の傍に繋ぎとめておくにはどうしたら良いか」
一歩一歩、ゆっくりと確かめるような足取りでバージルが近付いてくる。
潜在的な恐怖に距離をとろうともがくが、繋がれた身体では無駄な足掻きだった。
ブーツの立てる重い音が、まるで死の宣告のように聞こえた。
「そうして気付いた。文字通り、繋ぎとめておけば良いということにな」
ごつ、という一際重い音が響いて、ベッドの隣に立つ。
蝋燭の光の逆行で、2つの碧眼だけが異様に光って見えた。
衣擦れの音がして、バージルがゆっくりと上体を折り、グローブをはめた冷たい指先がの頬に触れる。
バージルの膝がベッドにかかり、ぎしり、とスプリングが軋む音がした。
「繋ぎとめる、って…?」
「言葉通りの意味だ」
バージルが、の首についた鎖を引いた。息が詰まって苦しさが襲う。
やめて、と目だけで訴えるが、バージルはそれを無視しての耳元に唇を寄せた。
「俺だけを見ろ。お前の姿を見るのも、声を聞くのも、触れることができるのも俺だけだ」
頬に触れていた冷たい指先が、首元を降りて肩の線を辿り、そのまま繋がれた手首までをなぞった。
その這うような触れ方に情欲の色を感じ取って、はきつく目を瞑る。
息苦しさに、つう、と涙が流れた。
バージルの、喉の奥で嗤う声が聞こえる。
、と呼ぶ声にうっすらと瞼を上げると、暖かい舌が涙の跡を辿った。
「や、やだ…」
最後の懇願。それは恐らく叶えられはしないだろうと心の何処かで諦めていた。
するりと腰の辺りを撫でられ、思わず身を捩る。
「これが俺の愛し方だ…」
歪んだ微笑と、次に振ってきた荒々しい口付けを拒む手段などある筈もなく、はまた一筋涙が頬を流れるのを感じた。
窒
息
す
る
鉄
の
鳥
籠