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「何をしている」 暖かい日差しが遮られて暗い影が落ちる。うとうとと、現実と夢の狭間を彷徨っていたは、その声に薄く目を開いた。 太陽を遮り見下ろしているのは銀髪の半魔。 何をしているか、だって。そんなこと見れば分かるじゃない。 ああもう少しで完全に眠りにつくことが出来た筈なのに。こんなに気持ちの良い日なのだから、きっと良い夢が見れたに違いないのに。 そんな気持ちをこめて、見下ろすバージルを軽く睨んだ。 「どけ」 しかしバージルは、そんなことを意にも介さずどけろと言う。 が寝ているここは、日当たりの良い場所に置いてあるソファー。バージルの定位置だ。 気持ちよくて柔らかくて、特に昼時には暖かい日が当たって絶好の昼寝場所となる。 普段はバージルがここに座っているため、彼が仕事に出ているときや書斎で調べものをしている時だけ、こっそりと使っているのだ。 「どきたくない…」 は呟くように言って、ソファーの背の方に顔を向けた。ここ以外にも座る場所ならたくさんある。 確かにここはバージルの屋敷で、バージルがいつも使っている場所だけれども、寝ている人間を叩き起こしてまで使う必要もない筈だ。 肩にバージルの手が置かれた感触がしたが、はいやいやと首を振り膝を抱えるようにして丸くなった。 溜息が聞こえて、手が離れる。 消えた温もりに少しだけ寂しさが残った。 あ、眠れそう 暖かい日差しが、強烈に眠気を誘う。 バージルには悪いが、今度こそ気持ちの良い午後の昼寝を…と思った矢先。 「え、なに!」 突然強く腕を引かれて、無理矢理に上半身を起こされた。 腕を掴んでいるのは相変わらず無表情のバージル。 なんて心の狭い男なんだ!という顔で見上げるが、これを無視してバージルはが起きたことにより空いたスペースに座った。 そうしてそのまま書斎から持ってきたであろう本を読み始める。 「ひ、ひどい」 半ば諦めの気持ちで、は隣に座るバージルを見る。 バージルの興味は既に本に向かっているようで、一瞥さえも寄越さなかった。 幸せな昼寝の時間は終わりを告げた。 敗者はただ立ち去るのみ。は席を立とうとした。 「どうした」 「何が」 「眠らないのか?」 バージルが本から目を離さずに言った言葉に目を丸くする。 「寝る場所ないから」 「ここで寝ればいいだろう」 バージルはソファーを指差して事も無げに言う。一体この男は何を言っているのか。 だって、とは口を尖らせた。 「そんなに広いわけじゃないもん、ここ」 だから寝られないよ、と言いながらバージルを見ると、ふと口元が柔らかく笑みの形をとった。 「ならば」 また唐突に、強く腕を引かれた。バランスを崩して、はバージルの膝へと傾れ込む。 反射的に起き上がろうとしたが、頭を強く押さえつけられてしまった。 ちょうど、膝枕のような状態。 「こうして寝れば良いだろう」 開いた口が塞がらないとはこのことだ。普段の彼からは考えられない。例えば平常においてが膝枕をしてくれと頼んだとしても、鼻で笑われるか完全に無視されるかのどちらかだろう。 一体どうしたの、と聞こうとしたが思い直して口を噤んだ。 彼の機嫌は変わりやすい。 「寝ろ」 一言そういって、バージルは手での瞼を閉じるように覆った。 逆らう理由も無いため、言われるままに目を閉じる。そのうち、バージルはの髪を柔らかく撫で始めた。 信じられない。気持ち良い。罠かな。暖かい。すこし眠くなってきた。だけど眠るなんて勿体無い。 閉じられた目の奥で、先ほど手放した睡魔がゆるゆるとやって来るのを感じた。 撫でる手が優しい。 眠れ、ともう一度言うバージルの声が聞こえた。 なんて強引な。ああ、でも。 色あせた夏の残像 |