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目が覚めると、何故かが隣で猫のように丸くなっていた。 バージルにしては珍しく、昨夜は肩に圧し掛かるような疲労を感じて泥の様に眠りについた。 一体いつ潜り込んだのか全く検討がつかない。普段は例え眠っていたとしても、誰かが近付く気配を見逃すことなど有り得ないというのに。 それ程にまで疲れていたのか、と思うのと同時に疲労に左右される人間としての部分を忌々しく感じた。 ひかれたカーテンの隙間から太陽の光が差し込んでいる。今は一体何時ころなのだろうか。 少なくとも、この明るさから考えるにもう朝と呼ばれる時間帯はとっくに過ぎているだろう。 軽く身じろぎすると、それに反応したのかが小さく呻き声を漏らす。 その眉間には皺が寄っていて、今にも歯軋りをしそうな表情だった。 寝ていても百面相なのか、と口が小さく笑みの形をとる。 バージルは片手を伸ばして、ぐぐ、と寄せられたの眉間をほぐした。 「うへ…?」 阿呆のような弛緩した声を出して、が薄っすらと目を開ける。 口も目も半開きにしてこちらを見つめるその様は、かなり間抜けだった。 「起きたか」 「…ううう」 「何故ここで寝ている」 「……んー」 質問には答えず意味をなさない音を発して、はまた目を閉じる。 バージルはその鼻を思い切りつまんだ。 「……いらいよ」 「何故ここで寝ている。お前の部屋はここではない」 バージルはもう一度同じ質問を繰り返した。 の意識は未だ半分眠りの中にあるのか、呂律は回らず目も閉じたまま。 「ばーじるの、」 「そばに、いたかったから」 だからもう少し寝ようよ、とかすれた声で続けては寝返りをうった。 バージルに向けられた小さな背が、呼吸に合わせて小さく上下している。 傍に居たかったからとは馬鹿な話だ。同じ館に住んでいて、いつも顔を合わせているというのに。 それでも、胸の中に温い湯が流れ込んでくるような感覚がした。 いつもならば、お前は阿呆か狭いから自分の部屋に戻れと言ってやるところだったが、今日は珍しくそんな気がおきなかった。 それどころか、付き合ってやるのも悪くないという考えすら沸き起こる。 バージルは腕を伸ばして、背を向けて丸くなるを抱き寄せた。 その髪に唇を寄せると、どこか眠気を誘う甘い香りがした。 ふふ、と息だけでが笑った。バージルの腕の中で器用に身体の向きを変え、少しだけ瞼を上げてこちらを見る。 「あったかいねえ」 そう言うの声は柔らかく緩やかだった。 そうだな、と素直な感情がまるで零れるように口から流れ出す。 がまた喉の奥だけで笑い、そうしてゆっくりと瞼を閉じた。 すぐに小さな寝息が聞こえてきて、バージルは呆れたようにその様子を見つめる。 腕に感じる暖かさが、じりじりと睡魔を呼び寄せた。 黒い睫が、差し込む太陽の光をうけて幸せそうに揺らめいている。 何故だか急にそうしたくなって、バージルはその睫に掠めるように口付けた。 そしてもう一度、を抱き寄せるようにして温い体温と睡魔に身を任せた。 静かにとじた花 (ただひとつ、願うことが許されるのであれば) (次に目が覚めても、この温もりが傍にあるように) |