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"好き"と"愛してる"の違いって何だろうね。 呟くようなの言葉に、本をめくる手を止めてバージルが振り返った。その眉は訝しげに顰められている。 口で言わずとも分かる。彼はいま心の中で、お前熱でもあるんじゃないのか、と思っている。 暫くそんな顔でこちらを見ていたバージルだが、やがて興味が失せたように読書に戻った。 外ではさあさあと雨が降っている。 の呟きは確実に耳に入っている筈なのに何も答えないバージルに少しだけ腹が立って、はもう一度先程の問いを投げかけた。 「ね、何だと思う?」 「…さあな。同じじゃないのか」 バージルの目は相変わらず分厚い本の文字列を追っている。どうやら答える気など毛頭無いらしい。 それは当然といえば当然の反応だった。 普段の彼の言動を見る限り、この手の質問に真面目に答えるとは思えない。 自分でも馬鹿なことを言ったなと思ったが、ここで切り上げるのもなんだか悔しいのでそのまま口を開いた。 「あたしにとっては、」 今日は所謂お天気雨、というやつだ。空は明るく雲だって晴れているように見えるのに、何故か雨が降ってくる。 この雨は一体どこからやってくるのだろう。 「好きっていうのはさ、そこにあればどうしても目が向いてしまうもので、でも突然無くなっても自分の人生においてそんなに困らないものなんだよね。例えば、」 は目の前のガラスの器に入っているミルクチョコレートをひとつ手にとった。 「わたしはチョコが好きで、明日からもう二度と食べられなくなってしまったら凄く悲しいけれど、だからといってわたしの価値観や生活が変わってしまうわけじゃない」 手の温度で表面が溶けかけたチョコレートを口に放り込む。少しだけ、バージルが本をめくる動きが遅くなった。 「反対に愛っていうのは、心の中に染み付いてしまって、失ってしまえば何もかも全てが崩れてしまうものだと思うんだ」 友愛とか情愛とか家族愛とか。そこにあるのが当たり前すぎて気付かないけれど、失ったときに自分の全てを変えてしまうもの。 窓の外は明るい。すこしだけ、雨足が弱まってきた気がする。 なんだか自分で自分が何を言ってるかわからなくなってきた、と一人ごちるは、いつの間にかバージルが手を止めてこちらをじっと眺めていることに気付かなかった。 「まとめると、"好き"は無くなっても割と大丈夫なもの、"愛"は無くなると困るもの!」 「随分と大雑把に分けたものだな」 バージルの言葉にはどこか笑いが篭っている。どうせまた馬鹿にしてるんでしょ、とは外方を向いた。 「あ、」 弱弱しく降っていた雨がついに止んだ。 空は相変わらず、先程まで雨が降っていたとは思えないくらいに明るく高い。 「単純な思考だ」 読書に戻るバージルを見て、それが先程の好きやら愛やらの定義についての感想なのだと気付く。 はその口元に浮かぶ笑みを睨み付けながら頬を膨らませた。 「いいよ、バージルなんて。雨も止んだから、このままふらっと出かけてもう二度と帰ってきてやるもんか」 「駄目だ」 予想外の返答に驚く。どこにでも行け、と言われると思ったのに。 そんなの知らない、と口を開こうとしたが、ついにその言葉は外に出ることはなかった。 「お前が居なくなると、俺が困るからな」 その言葉を意味を理解するのは簡単だった。 バージルの、こちらを見つめる青い目があまりにも優しくて、は思わず俯いた。 ハチミツの雨 |