何か考え事でもしているのか、珍しく無口な彼が気に食わない。
デスクの上に足を乗せて、寄りかかるようにアンティーク調の椅子に腰掛けている様子は普段と全く変わらない。
だが、彼の口はまるで縫い合わされたように閉じており、目線は壁に貼ってある如何わしいポスター…の上にかかっている大剣に注がれている。
その剣を手に入れた詳しい経緯については知らされていない。
彼、ダンテはの過去に踏み込んではこない。
だからも彼の深いところには踏み込まない。
ただ、ダンテの顔があまりにも人形じみて見えたから少しだけ不安になる。

そっと近づいて、ダンテを囲うように椅子の手摺りに手をついた。
青い目が大剣から離れ、こちらを向く。
そこに映った自分はどんな風に見えているのか。

その視線を真っ直ぐに見つめたまま、ゆっくりを顔を近付けた。
閉じられたままの唇は乾いていて、少しだけかさついている。
小鳥が餌を啄ばむように何度も何度も口付ける。唇が離れるたびに、ちゅ、と小さな音がした。
自分で立てた音だというのに、ぞくりと何かが背中を這い上がってくるような気がする。

ダンテの表情は変わらない。

派手な音をたてて唇が離れる。ぴくりとダンテの瞼が震えた。
相変わらず興味の無さそうな顔をしているが、この先何を期待しているのか知っている。
だけどそう簡単に望むものを差し出したりなんかしない。
彼の赤い舌がゆっくりとその渇いた唇を湿らせるのを見た。
その様子がまるで肉食獣か何かのようだと思いながら、は始まったときと同じようにゆっくりと身体を離した。


「なんだ、嫉妬か」


いかがわしいポスター…写っている女性の名前は確かドミニク・テレシコワだった気がする…を顎でしゃくって、ダンテは薄く笑った。
どうだろうね、と言いながら踵を返そうとすると、右手を攫われた。
の指の間に強引にダンテの指が割り入る。こうして触れるときにいつも思う、男性と女性とはこれ程にまで違うものなのだろうかと。
ゆっくりと絡まる指すらも淫靡に見える自分はそろそろ末期だ。


「あれで終わりか、babe?」

「終わりじゃ嫌?」

「ああ、嫌だね」


くい、と軽く引かれて先ほどと同じように手摺りに手をつかされる。
ダンテの手が後頭部に回り、鼻先が触れるか触れないかのところまで顔が近付いた。
すう、と上がる口端を見て心臓が跳ねたがそれを表には出さない。(…ようにしたが、多分気付かれているだろう)


「もっと誘ってみろよ」


耳元で囁く低い声に眩暈がしそうだ。
なあ、と促す熱い吐息に押されてはダンテに口付けた。
うっすらと開いた唇の間から侵入し、ダンテの舌に絡ませる。
静かな事務所では水音すら大きく響く。それが殊更に淫猥で、頭が痺れた。

あまいあまいあまい。
味ではなく感覚だ。自然と荒くなっている息を止めることはできない。

ダンテ、と唇の間から漏れた自分の声が存外に濡れていることに驚く。
それが引き金だったかのように、今までされるが儘であったダンテの舌が意思を持って動き始めた。


「ん、ぅ」

…」


ふわ、と身体が浮き上がり、導かれるままダンテの腰の辺りに跨るようにして座った。
キスというよりは食べられていると言った方が正しい。
息をすることすら惜しいというように、ダンテは執拗にの口内を蹂躙した。
時折漏れる空気が熱くてじんとする。


「はぁ、」


つう、と線を描くようにダンテの指が背筋をなぞり上げる。
湿っぽい音を立てて離れた唇を銀糸が繋いだ。の息は既に上がってしまっている。


「次はどこにキスして欲しい?」


意地悪そうな目がこちらを見つめながら尋ねてくる。
甘い掠れた低音が身体の奥に染み渡る。
いつの間にか服の中を這っている手が熱を運んできて、苦しいくらいだ。
どこに欲しいかだなんて分かりきっている癖に、いつだってこの悪魔はの口から言わせたがる。


「瞼、頭、耳、頬、それから首筋」


に言われた通りにダンテは口付けを落とす。
くすぐったくてもどかしい。本当にして欲しいところはそこではないからだ。
身体に触れるダンテの手は、確実にから熱と欲を引き出していく。


「それから?」

「……」

「鎖骨、胸、脇腹、内腿、…と?」


言い淀むを追い詰めるように、ダンテが言葉と共にじわりと熱を持ち始めた身体の中心に触れた。
びく、と脚が痙攣する。

彼は狩人の目でを見る。
降伏してもなお更なる服従を求めるそれはいっそ酷薄だ。
魂にまで刻まれた狩人としての性質が、相手を完膚なきまでに屈服させてしまうのだろう。


「ダンテの、すきなとこに、して」

「俺の?」

「お願い、して」


追い詰められて追い詰められて、発した言葉は情欲に塗れている。
の陥落に満足したダンテは一言、よく出来ました、とまるで出来の悪い生徒を褒めるように言って、そのまま焦らされて熟れた身体を乱暴にデスクに押し倒した。
これから与えられるものへ感じるのはただ歓喜と期待だけ。
見上げるダンテの目に宿った欲に喉が鳴る。


「俺の好きにしていいんだな」


ノーという言葉を受け付けない、理不尽な最終宣告はあまりにも甘美だった。