がいつも一緒に遊んでいる男友達は、とてもお酒が好きな連中だった。
とりあえず、お互いに何も用事がない日は必ずといっていいほど誰かの家で飲んでいる。
今日も今日とて、「貰った焼酎を飲み切ろう」という名目で、いつもの面子が集まった。
政宗、佐助、慶次、幸村、それからとかすがだ。かすがは「なんでわたしがあいつらと!」といつもぎゃあぎゃあ言いながらもやってきて、そうして潰れてしまう。
つまみを用意して上がり込んだ佐助の家は、相も変わらず片付いていた。
…正直、の部屋よりも片付いていると思う。


「うわー馬鹿としか思えないね」
「今日で空けるぞ」


部屋に入って早々目に入った、卓上にどどんと置かれた4リットルの焼酎ボトルを見て顔をしかめると、政宗がにやにや笑いながらそんなことを言った。
絶対に無理だ。はそう思った。

「Hey、いいかお前等今日は死ぬ気で「はいかんぱーい!」

意気込みを語ろうとする政宗の言葉を遮った慶次の声で、皆が一斉に杯を空ける。そうしてまずは「おいテメェら!」と遮られたことに文句を言おうとする政宗に2杯ばかり飲ませて、いつものように飲み会が始まった。

最初は雑談でもしながら適当に飲んだり飲ませたりをしているのだが、いい具合に酔ってくると当然のようにゲームが始まった。
リズムゲーム指差しゲーム古今東西ゲームミャンマーゲーム…
そんないつものゲームで、絶対に無理だと思った焼酎がどんどん減ってゆく。

そこで唐突に、慶次が「愛してるよゲーム」をやらないかと言ってきた。


「なーにそれ。また変なゲーム仕入れてきたんでしょ」
「…悪い予感しかしないぞ」


頬杖を突きながら怪訝そうな目で見る佐助と、不信感を隠そうともしないかすが。
だけど慶次はとても楽しそうな顔で、そのゲームの説明をしてきた。


「簡単なゲームだよ。右隣の人には『愛してるよ』って言って、左隣のひとには『え?』って返す。そんで照れた人間が負けってやつさ」
「右回りとか左回りとかの制限はないのー?」
「ないない。右でも左でも好きな方に回せばいいんだって。でも右には愛してるって囁くんだぜ」


かすがが、すかさず「絶対に嫌だ!」と言った。なぜならかすがの右隣は佐助だったからだ。
佐助は「俺様さんせーい」と、からかう口調でかすがの方を見ながら言った。
幸村は「お、俺はそのようなものやりたくない!」と反対した。
政宗は「面白そうじゃねえか」とにやにやしている。わたしも、面白そうだから賛成した。
結局、民主主義の数の暴力が発動して、慶次提案の「愛してるよゲーム」をすることにした。

適当にあみだくじを作って、席順を決める。本当は男女男女で座らなくてはいけないらしいのだけれども、そのへんは無視した。


あたしの右隣に座ったのは、幸村だった。
幸村は、ゲームが始まる前から既に敗者の顔をしていた。諦めムードだった。
ちなみに、幸村の右隣は佐助だ。

慶次から始まる愛してるよゲーム!という掛け声から、とうとう羞恥の限界を試すゲームが始まった。
まずは様子を見るためか、慶次が右隣に居たかすがに「愛してるよ」と囁いた。みんな噴き出した。かすがはいきなり、「ふざけるな!」と叫んでペナルティを貰い、焼酎を煽るはめになった。

「だめじゃんかすが!左隣のひとには『え?』でしょ!」
「うるさい!わかっている!」

そうしてまた今度はかすがからゲームが始まる。今度は誰も失敗せずに、とりあえず右にぐるりと一周するかと思いきや、やはりというべきか、皆の予想通りの人物が予想通りの反応を示した。


「幸村愛してるよ」
「……………っ」


が右隣の幸村に声をかけた瞬間、幸村が固まってしまったのだ。顔は茹蛸のように真っ赤になってしまっている。
慶次が笑いながら、「やっぱり幸村だな」といって焼酎を注いだ。

そうして今度は幸村から始まった愛してるよゲーム。
幸村はセオリー通りに、自分の右隣に居た佐助に「あ、ああ愛しておるぞ」と呟いた。
そのあまりに恥かしそうな態度に、のなかで「幸村を潰すならこのゲームだ」という直感が沸いた。
佐助の中でも、と同じ直感が生まれたのだろう。


「え?」


にやにや笑いながら、彼は幸村にそう言った。
ぐ、と言葉につまりそうになりながらも耐えた幸村は、また佐助に「愛しておる」と言う。佐助はまたも「え?なに?」と返す。
幸村は拳を握りしめながら「愛しておると言っておろう!」と叫んだ。けれど佐助も譲らない。
「愛しておる」「え?」「愛しておる」「え?」の連鎖がしばらく続いた後、とうとうその気持ちわるい状況に耐え切れなくなった幸村が、こちらを向いて、


「………え」


と言ってきた。棒読みだ。
佐助は当然、目で合図してきた。旦那を潰せ、って。


「愛してるよ」
「え」
「愛してるんだって」
「…え」
「幸村、愛してる」
「…っ、…え」


予想以上に幸村が粘るもんだから、なんだかのほうが恥かしくなってきてしまう。
さっさと決着をつけようと、も覚悟を決めた。

幸村の、膝の上に手を置いて、身を乗り出して顔を少しだけ近づける。そうして、


「幸村のこと、愛してるの…」


と思いっきり甘ったれた声で言った。自分でも、なかなかの演技力だったと思う。
幸村は顔をぼぼぼっと赤くしたあと、言葉を詰まらせ、そして誰かからコールが掛かる前に止める間もなく手酌で焼酎を注いだあと、ぐい、とそれを飲み干した。
どっと笑い声が起こって、も当然笑った。
幸村は顔を真っ赤にさせながら、「俺はこんなゲームはやりたくない!」と言った。
けれどそれにすっかり味をしめたあたし達は、普段は強くてほとんど潰れない幸村を潰すため、このゲームを執拗にやり続けた。







飲み会が終わったのは時計の短い針が4を回ったころ。既にあたりはうっすらと明るくなりはじめている。潰れた政宗はそのままに、潰れたかすがを送り返してから、と幸村は二人で歩きながら帰っていた。
幸村は結局潰れなかった。むしろ最終的にのほうがより酔っ払いになってしまっている。いつものことなのだけれども。


「楽しかったねー愛してるよゲーム」
「俺は楽しくはなかった」
「幸村最弱だったよね。うけるー」
「煩い!」


あのゲームの話をすると、幸村の顔がまた赤くなった。かすがも相当このゲームに弱かったけれど、幸村の最弱っぷりといったらかすがの比ではなかったのだから仕方が無い。


「次もあれやろうよ」
「御免こうむる」
「幸村あれやると負け確定だもんね」


笑いながらそう言うと、幸村は少しむっとした顔をした。けれど負け確定なのは真実だ。

ひいひい笑いながら歩いていると、突然幸村が腕を掴んできた。そんなに怒ったのかと見上げると、思ったよりも近いところに彼の顔。
思わずどきりと心臓が跳ねる。


「…幸村、なに」
「愛しておるぞ」
「…………えっ」
「そなたを愛しておる、
「………」


それが、愛してるよゲームを再現したものだと気付くまでにすこし時間がかかった。愛しておるぞ、と言った幸村の声色がとても真剣で、どきどきしてしまった。
「も、もーそういう不意打ちはなしだよ!!」と怒って、ばん、と彼の胸元を叩く。


「そなたの負けでござるな」
「はいはい!」


くすくすと笑う声が聞こえる。それに悪態をつきながら、もし幸村の右隣に居たのが自分だったら、もしかしたら負けていたのは自分だったかもしれない、と思った。


「負けたのだから、ペナルティを受けてもらわねば」
「はい?」


ペナルティって何よ、と言おうと顔を上げたそのときだ。
唇が柔らかいもので塞がって、の世界から音が消えた。
呼吸が戻ってもまだ動けないの耳元に、少しだけ照れくささを含んだ声がかかる。



「実はな、俺はそなたのことが…」







(090829)