屋上に寝転がって、雲が流れていくのをぼーっと見つめる。
コンクリートが暖かくて、気持ちがいい。
ちょっと寝そうかも、と思っていると、目の前に暗く影が差した。


、寝ておるのか」
「まだ寝てません」


青い空を遮って影を落としたのは、最近付き合い始めたばかりの男、真田幸村だ。
買ってきたぞ、とにこやかに彼が見せてきたのは、チョコのかかったドーナツみたいなのと、アップルパイと、クリームパンにおにぎりというなんとも微妙な組み合わせの昼食だった。


「甘いのばっかじゃん」
「好きなのだから仕方あるまい」


さあ、食べよう、と言いながら彼は既にアップルパイの袋を開けてしまっている。
相変わらずの甘党っぷりに、やれやれと思いながらも顔が緩んでしまう。

先週彼に、一つの店を巻き込んだまるで漫画の中みたいな驚きの演出で告白され、それを承諾してから後、の周りの騒動といったら相当なものだった。
これまで全く浮いた話の無かった幸村とが突然付き合い出したということで、の友達も、それから幸村の友達も、すごく驚いていた。(猿飛君だけはあんまり驚いてなかったみたいだけど)
しかも告白の前に、幸村は友人の目の前からを掻っ攫うという芸当までやってのけたのだから、暫くは激しい冷やかしの嵐だった。

まあ紆余曲折があったような無かったような経過を辿り、無事にこうして付き合えたということで、今では二人でたまにお昼なんかを食べたりしている。
教室で一緒に食べたりするとまたぎゃあぎゃあ騒がれるから、屋上とかでこっそり。


「そういえば、
「んー?」
「放課後何処かへ行かぬか」
「今日、火曜日だっけ」
「ああ」


何処に行きたい、と幸村がはにかみながら尋ねてくる。
その口の端についているパイ生地を取ってあげながら、「何処でもいいよ」と答えた。


「何処でもいいのか」
「うん、いいよ」
「では、行きたいところがあるのだが…」
「どこ?」
「ボーリング場の隣に、新しい店が出来たのを知っておるか」


にこにこ嬉しそうな幸村の顔を見て、溜息をつく。
こういう時の彼の顔は、本当に生き生きしていて、眩しいくらいなのだ。


「また?幸村と一緒にいたら、あたしすっごい太っちゃいそう…」
「心配ない」
「そりゃ、幸村はね」


お弁当をつつきながら、唇を尖らせて「あたしは幸村と違って、そんなに代謝良くな―…」
と言い掛けたところで、ふ、と影が落ちて唇に柔らかいものが当たった。
離れていく幸村の顔は、してやったり、とでも言いたげな笑顔だ。
なんだかくすぐったいような恥かしいような気持ちになって、それを誤魔化すために不機嫌を装ってそっぽを向く。
この男、付き合う前のあの恥じらいっぷりは何処へやら、最近はのほうが後手後手に回っているような気がする。


「二人なら、制覇も早いぞ」
「…わかりましたよ」
「ならば、授業が終わったら行こう」
「現地集合じゃなくていいの?」


仕返し、とばかりにそう言い返すと、逆に「俺はと共に行きたい」と言われて照れくささに顔が熱くなった。
幸村はこうやって、真っ直ぐな目と言葉で気持ちを伝えてくるから性質が悪い。
本当は天性の女ったらしなんじゃないだろうかって思うくらい。




「んー?」
「また、宜しく頼む」



いつかのように、幸村が右手を差し出す。
しょうがないな、と言いながら、その大きな手を握り返す。



あの日、初めて彼が差し出した右手を握り返してから、一体どれくらい経ったんだろう。
全部全部、握ったこの手から始まったのだ。

幸村とあたしの、手が繋がる。


我らの間に敷かれた、パティスリー完全制覇共同戦線は、まだまだ暫く続くようです!










fin.

(090401)