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翠廉さんから専属執事バトン。いざ、参るぅああああああ! 指定:真田→仕える心は天下一品、以前は武田家で働いていたがお館様の命により殿を守るべく馳せ参じた騎士(武士)精神に富んだ執事 専属執事 目覚めよスリィピングビューティ ・朝目覚めると真田が耳元で起こしてくれました。 「朝ですぞ、お嬢様」 朝餉の用意が出来ております。続けられた生真面目な声を聞かぬ振りをしながら、は今日も頭までベッドに潜り込んだ。 お嬢様、とたしなめる声の主は、武田の伯父様のはからいにより三ヶ月前にこの屋敷にやってきた執事だ。名前は真田幸村。専属の、真面目で紳士的な執事の鑑のような男だ。 起きてくだされ、と幸村が肩を揺らしてくる。昔世話をしてくれていた女中とは違って、幸村は布団を引き剥がすようなことはしない。辛抱強く起こそうと頑張る幸村の為に、もそもそとベッドから顔を出した。 そうして、自分の額にこつりと指を当てる。毎朝繰り返される、無言の催促。 幸村は、困ったように息を吐き、眉尻を下げた。今、この大きな部屋にはと幸村しか居ないというのに、幸村はきょろきょろと辺りを見回して人が居ないのを確認する。 頬を大きな手が包み、幸村の顔がゆっくりと近付いた。目を閉じると、額にあたたかい唇の感触。 「眠り姫のふりも宜しいが、目覚めて下さらねば某も困りまする」 額に唇が触れるか触れないかの距離で幸村が話すものだから、あたる吐息がくすぐったい。くすくすと笑いながら、は大好きな執事の首に腕を巻きつけた。 「おはよう、幸村」 「お早う御座います、殿」 耳元で囁かれる極上の朝、今日も素敵な一日の始まり。 時々、シンデレラ ・真田が着替えを手伝ってくれるそうです。 さあ着替えを、そう言って差し出された服を受け取る。毎日幸村が服を持ってきてくれるけれど、彼が選んでいるのかどうかは知らない。もしかしたら、前みたいに年配の女中さんが選んだものを持ってきているだけかもしれない。 では、と部屋から出ようとする幸村の袖をひく。 これも毎日のことだけれども、そうすると幸村はまたとても困ったような顔をするのだ。 は、この執事を困らせるのが大好きだ。お父様に怒られるとわかっていても、どうしてもやめられない。 「着替え、手伝って」 「…お嬢様、某は執事とはいえ男にござりまする。年頃の娘が、みだりに男の前で肌をさらすものでは…」 「お嬢様のご命令なの。手伝って」 「…御意に」 幸村はもう極力こちらを見ないように触れないようにして介添えをする。それがまた面白い。 着終えたワンピースの裾を翻すと、幸村がまた窘めるように名を呼んだ。 「ちょっと地味じゃない?」 「良くお似合いです。…靴を」 幸村に手を引かれて、窓際の椅子に腰掛ける。そう、とまるで壊れ物を扱うように、幸村の手がの足を攫った。 気分はまるでシンデレラ。 靴はガラスでなんて出来てないけれど、そんなのいいわ、どうだって。 大切なのは、それを履かせてくれるのが誰かってことなのよ。 「少し、裾が短すぎるやも知れませぬな…」 呟かれた言葉に、そう?これくらい短くてもいいと思うわ、と言いながらワンピースの裾をめくると、執事は少し赤くなりながら「破廉恥な!」と怒った。 我儘ストロベリィ ・今日は真田と買い物。どちらまで行きますか? 「今日はどちらまで?」 「んー、ここ!」 雑誌のなか、極上スイーツ特集!と書かれたページ。苺のミルフィーユの写真を指差す。 食べるために、なんと1時間待ちの行列が出来る程だという。幸村は、甘いものが好きなのだと聞いた。 だから、一昨日からこの日の為にリサーチしておいたのだ。 きっと喜ぶだろうと思っていたのに、予想と違って幸村はとても苦い顔をした。 「なりませぬ」 「ええ!」 「明日、遣いをやって買いに行かせれば宜しい」 一時間も並ぶ必要など…と、幸村は首を振る。はなんだか悲しくなった。 幸村は、自分がここを選んだ意図をわかっていない。注文したり、他の者に頼めばいいなんてことは分かっている。でもそれじゃあ駄目なのだ。全然駄目なのだ。 行こうよ。駄目です。行くの!なりませぬ。わたしのお願い聞けないの?駄々を捏ねても、行きませぬ。 押しても引いても駄々を捏ねても首を縦に振らない頑固な執事。 これはもう望み薄だ。あんなに、楽しみにしていたのに。 「…幸村と、食べに行きたいのに…」 我ながら往生際の悪い言葉が漏れる。ああでも、本当に楽しみにしていたのだ。 でも幸村がこんなに駄目だというのなら、無理矢理行っても仕方が無い。 「…わかった、じゃあやめる」 雑誌を閉じながら言った声は、自分が思っていたよりもずっと沈んでいた。 なんだかもう買い物とかどうでもいいなあと思っていると、ややあって、幸村が溜息とともに口を開いた。 「…勝手な行動を取らぬとお約束頂けますか」 「え?」 「某の元を離れぬとお約束して下さるのならば、ゆきましょう」 「…ほんと?」 某と行きたいのでしょう?と、眉尻を下げて微かに笑う。 途端、沈みきっていた心が一瞬で歓喜に沸きあがり、幸村の腕に飛びついた。 「お、お嬢様!」 「幸村もう大好き!」 困った方だ、という声が随分と優しくて、ああやっぱり自分はこの執事のことが大好きなのだと思った。 マイ・フェア・レディ? ・道端でこけそうになりましたが真田が受け止めてくれました。 かつん、とヒールがひっかかり、ぐらりとよろめいたと思った次の瞬間にはもう目の前には執事がいた。 幸村の腕と胸とに掴まりながら、よく状況が飲み込めずに目を瞬かせる。 「大丈夫ですか」 「え、あ」 「お怪我は」 「大丈夫」 それは良かった、と言いながら、幸村が少しだけ乱れたワンピースを整えてくれた。 「では、参りましょうか。…御手を」 「わ」 幸村が、手をとって静かに引いてくれた。なんだろう、ドキドキする。自分から抱きつくのは平気だけど、こうして幸村から手を繋いでくれることは滅多にないからちょっとだけ照れる。 「全く危なっかしくて、目が離せませぬ」 きゅう、と握ってくれるこの手は、こんなに大きいものだったかしら。 我が愛しきブラッディ・メアリ ・家に帰ると真田と夕食の準備をすることになりました。貴女の好きなメニューだそうです。 ・包丁で指を切った!!と思ったら…真田が舐めてくれています。 今日は幸村と一緒に夕飯を作るわ!そう言うと、幸村もシェフもとても困った顔をしていた。 だが、旦那様に溺愛されている末娘の願いともなれば、シェフも引き下がらざるを得ない。 結局この我儘も通って、幸村と一緒に夕飯を作ることになった。 メニューは、の大好きなオムライス。子供っぽいと笑われても、これが一番好きなのだ。 二人仲良く台所に立つなんて、まるで夫婦みたいね。そう言いながら楽しく夕食を作る…筈だったのだが。 「お嬢様…」 「できる!」 「某にお任せ下され。お嬢様はそちらで…」 「できるよ!むむ…」 玉葱のみじん切りなんて、したことがない。苛々して、終いにとりあえず切ればいいんでしょ、とがんがん包丁を打ち鳴らすと、幸村は顔を青くして包丁を取り上げようとした。…が、一歩遅かった。 「っ!」 左手の人差し指に、うっすらと赤が走る。あーあ、切っちゃった。と思ったのと同時に、幸村が物凄い形相で左手を掴んできた。 「なんということ…!申し訳ござりませぬ、某がついていながら…!」 「ちょっとだけだから大丈夫だよ」 「すぐに医者を!」 「大袈裟だよ、こんなのは舐めておけば治るの!」 救急車でも呼びそうな勢いの幸村を押し留めて、大丈夫だからと説得する。ようやく大人しくなった幸村に一安心して、絆創膏でも貼らなきゃ、と取り敢えず料理場から出ようとすると、幸村に左手をとられた。 「なあに?ゆきむ…」 幸村は、その左手を徐に自分の口元へと運び、そして少しだけ血のついた傷口をぺろりと、舐めた。 「ちょ、ちょっと」 「お館様に合わせる顔が御座りませぬ…お嬢様の肌に傷をつけてしまうなど」 「だから大丈夫だって言ってるのに」 「もう二度と、このような失態を犯したりは致しませぬ故…」 殿…と呟きながら、ちゅうと傷口を吸われた。眉を顰めて指先に口付けるその様子が物凄く艶っぽくてどきっとして、思わず振り解いてしまった。 籠の中のハミングバード ・無事に出来た夕食。真田が食べさせてくれるそうです。 なんとか作り終えることができたオムライス。 銀のスプーンに乗った綺麗な黄色と赤を見つめながら、はぱくりと口を開いた。 そこへ、銀のスプーンがオムライスを運び込む。スプーンを持っているのはではなく、 「お嬢様、如何で御座いましょう」 の執事であった。 怪我をしたのは左手だと言うのに、夕食は某が食べさせて差し上げまする!と有無を言わさぬ執事の主張に、渋々頷いてしまったのがまずかった。あれもこれもと幸村が差し出すものを黙って食べる。なんだか小さな子供に逆戻りしたようで、とても恥かしい。 「自分で食べられるのにさ」 幸村がぐるぐる巻きにしてくれた、人差し指を見つめる。たかが浅い切り傷くらいで、大袈裟な執事だ。でも、それが自分を思うが故の行動だとわかっているから、無碍に断ることも出来やしない。 「…まるで、鳥の雛に餌をやっている気分にござる」 「ちょっと、どういうことそれ!」 「雛はかわゆいのだから良いではありませぬか」 「よくないよ、餌ってなに!」 幸村の問題発言にぶうぶうと文句を言う。餌付けだなんて、不名誉極まりない! だがその執事の次のひとことで顔を赤くして黙り込んでしまうであった。 「殿が可愛らしゅうて仕方が無いと申しておるのです」 可愛いアンジェリカの法則 ・就寝前に真田が貴女と一緒に居てくれるそうです。何をしますか? 眠る前に、たっぷりのミルクを入れた紅茶を飲むのが好きだ。 寝る前に食べたり飲んだりすると太るからよくないっていうけれど、もう長く染み付いた習慣だ。 今までは、部屋でひとりで飲んでいたのだけれども、幸村が来てからは二人になった。 本当は、こんな夜に男である執事が部屋に出入りするのはよくないことなんだそうだ。 だけど、武田の伯父様が寄越した者ならば、ということで容認されている。 「明日、何しようかな」 「明日で休みも終わりに御座います。学校の課題は終わったのですか」 「……」 「明日の予定が埋まりましたな」 …この話題はあんまり楽しくないけれども、就寝前のこの静かなおしゃべりの時間が、はとても好きだ。執事としてきびきび動いている幸村が、ここでは少しだけ、執事ではない幸村になる。 「手伝ってくれる?」 「己の力でやらねば、意味がありませぬ」 「お願い」 「お断り申し上げる」 「幸村」 「…」 「ゆきむらー」 「……少しだけ、ですぞ」 なんだかんだでこの執事、結局のところに甘いのであった。 良い子でお眠り、赤ずきん ・真田が一緒に寝てくれるそうです。 ・寝た振りをしていると真田からの囁きが…何と言っていましたか? 「お嬢様が眠るまでの間だけです」 「わかってる!」 もう渋々といった体で、幸村がベッドの中に入ってきた。失礼致す、だなんてちょっと畏まって、面白いったらない。 ベッドの中は少しだけ冷たくて、暖を求めてごろごろと幸村に擦り寄ると、よしよしと頭を撫でてくれた。それが嬉しくてさらに擦り寄ってぎゅうとしがみ付くと、そのようにあまり近付くものではありませぬ、と窘められてしまった。 「あったかいー」 「まるで童のようで御座いますな」 「子供じゃないよ」 「そうでござろうか」 「子供じゃないって、確かめてみる?」 にやりと笑って幸村の顔を見つめると、目をそっと塞がれて「もうお眠りなさい」と低く優しい声で言われた。ちょっと呆れた声だ。 「今日ね、ケーキのお店、連れて行ってくれて有難う」 「いえ」 「我儘言って御免なさい」 「いえ」 「…嫌いにならないでね」 ぎゅうといっそう強くしがみ付いて呟くと、幸村が低く笑って、背中に腕をまわしてくれた。 「某は、そなたの望みを叶えそなたを守るためにあるのです…殿」 「…うん」 「あのようなかわゆい我儘、幾らでも聞き届けましょうぞ」 「うん」 「だから、もうお眠りなされ」 眠るまで、某が傍におります故。 ぽんぽんと子供をあやすように背中を叩く執事に、もう一度だけ「だから子供じゃないのに」と文句を言って、優しい腕に身を任せ静かに目を閉じた。 じりじりと迫ってくる眠気のなかで、幸村が何事かを呟いた気がした。続いて一瞬、唇に何かが触れたような気がしたけれども、もうとてもじゃないけれど瞼を開けることなんてできなくて、そのまま優しい温度と眠りの中に意識を手放した。また明日、大好きな執事がもたらす優しい朝と、彼の居る一日を、心待ちにして。 「子供ではないから、はやく眠ってくれと申しておるのだ…」 (080421) |