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優しく灼かれる。 そういう表現が最も正しいと思う。 戦場で紅蓮の鬼と呼ばれる彼は、褥においても燃え盛る鬼だった。 酷い扱いを受けるわけではない。むしろその逆だ。 丁寧に、まるで真綿で包み込むように、慈しまれる。だが同時に、灼かれているような熱さを覚えるのだ。 鍛錬をするとき、お館様に会うときのあの熱さを燃え盛る業火とするならば、褥での彼の炎は、暗闇に灯る蝋燭のそれだ。 は先日、武将真田源二郎幸村より突然の告白(といえるのかどうかは甚だ疑問ではあるが)を受けた。 告げたその内容も次にとった行動も、さすがは武田の一番槍というべきか、力押しもいいところの正面突破であった。 曰く、「俺の子を産め」と。 冗談のようになし崩しに頂戴されてしまいはしたが、勿論「子を」などという文句を信じるつもりはなかった。 なかった…が、しかし。 その日から、2日と開けずに幸村はの寝所に通い続け、耳元で例の文句を囁きながらその通りの行動をとった。 流石にこうなると、も色々と考えざるを得ない。 幸村は体力無尽蔵の若武者、対しては(悲しいことに)何の取り得も無い非力な只の女である。 こうも好き勝手に振舞われては、体力も持たず疲れは溜まるばかり。 拒否しようにも、本気の真田幸村を止める術など持とう筈もなく、いっそのこととっとと子が出来ればいいのに、という考えさえちらついてしまう。 さらに悪いことに、こうも長いこと触れられ慣らされた為であろうか、あの声と手に逆らうことが出来なくなってしまっているのだ。 それに気付かぬ筈の無い幸村は、益々自らの思う通りに振舞う。 一体何を何処まで知っているのか、彼の忍びにさえも「もう観念して旦那のものになっちまえよ」と言われる始末。 平穏な日々はどこへやら、もはやに安息はなかった。 そう、たとえ日の高い昼間であっても。 「殿」 洗濯物を運んでいる最中のことだった。 ふわり、と後ろから腕が腰に回されて、驚きに洗ったばかりのものを取り落としそうになる。 毎度のことながら、彼の行動は予測し難い。 先程まで、濡れ縁で団子を頬張っていたと思ったのに、いつの間に背後に回っていたのか。 「お仕事の邪魔です」 「そのようなもの、後にすれば宜しかろう」 「駄目です!」 腰に回った腕を解こうと身を捩る。 すると、予想に反してその腕はすんなりと離れた。 安堵の息をつくもつかの間… 幸村は、次はの持っていた洗濯物をひょいと奪い上げた。 「返してくださいよ」 「誰か、おらぬか」 返却を求める声は黙殺され、幸村は良く通る声で他の女中を呼んだ。 すぐに、少し歳のいった女中が現れ「どうなさいましたか」と尋ねる。 「これを代わりに頼む」 幸村は、その女中に洗濯物をまるごと無造作に手渡した。 「わたしのお仕事!」 という訴えもやはり聞き流される。女中は心得たように、そのままの仕事を持って去ってしまった。 電化製品の溢れる時代に生まれ何不自由無く育ってきたが、この戦国時代でできることなど限られている。 洗濯は、その限られた仕事のひとつだった。 もう、と不満も露わに幸村の胸を拳で叩くが、するりとその手を取られる。 幸村は、目を細めての手を愛おしそうに撫でた。 「殿の手は、本当に白魚のようでござるな…。肌も、絹の如くすべらかだ」 この男は、時折こうやって耳を塞ぎたくなるような言葉を囁く。 の肌は別段綺麗というわけではない。だが、それはの時代の基準であって、水仕事もろくにしていなかったの手は、確かにこの時代の女達と比べれば綺麗なのかもしれない。 出会った当初は、傷も無く日にも焼けていない肌をしているとかで、どこぞの姫君なのではないか、と問われたりした。 何の苦労もせずに育ったということを皮肉られたような気がしてその時は腹が立ったのだが、成程、便利な機械が無い世界では、全てが手作業、力仕事。柔らかい皮膚や泥の詰まっていない爪をしているのは、仕事をしない姫君だけだというのは紛れもない事実であった。 幸村は、彼曰く絹のような肌(これは絶対に言い過ぎ)を、うっとりとその槍を持つ硬い手の平で撫でる。 「手だけでは足りませぬ。この肌に触れさせては貰えませぬか」 「…は、は?」 言葉の意味を理解できず阿呆面で立ち尽くす。 幸村の無骨な手が頬を撫で、首を確かめ、着物の合わせ目に辿りついた。 その手がするりと合わせ目から忍び込もうとした瞬間、ほとんど反射的にはその手を振り払おうとした。 …がしかし、それは敢え無く失敗に終わった。 が振り払う手を幸村が掴み、ぐいとさらに引き寄られる。 迷い無く合わせ目から入り込んだ手は、鎖骨の少し下のあたりをゆるゆると彷徨った。 慌てて、捕まれていない方の手で止めようとするが、所詮は女の力、びくりともしない。 「や、ちょ、ストップ!ストーップ!」 「某に異国の言葉は通じませぬ」 日本語だって通じないくせに!と叫んで手を引き離そうともう一度彼の手を掴むと、今度は抵抗なしに幸村は手を引いた。 少し緩んでしまった合わせを直しながら、は顔を赤くしつつ抗議する。 「ほんと、信じられな……っわ、な、なに!」 抗議はまたも最後まで聞き入れられることはなく、幸村はそのままの身体を引き寄せ、膝裏に腕を入れて抱え上げた。 ふわ、と身体が浮いて、地面から離される。 を抱き上げたまま、幸村はずんずんと廊下を進む。 「お姫様抱っこ…!じゃなくて、下ろしてください!重いですから!」 「そなたは軽い。まるで羽のようでござる」 「そんなわけないから!」 ぎゃあぎゃあ言い合いながらも幸村は歩みを止めず、着いた先は幸村の自室だった。 「人を払え」 控えていた小姓に命じて、幸村は器用に障子を開けて、閉めた。 畳の上に優しく倒される。 跳ね起きようとしたが、上から幸村に肩を押さえられ、叶わなかった。 「昼間っから、な、なにするつもり!」 「なにを、とは」 笑い声を滲ませた声が降る。 幸村はうっすらと口の両端を吊り上げて、しかししっかりとした言葉を放った。 「そなたを孕ませる」 あまりの台詞に唖然とする。 「は…はらっ…」と声を裏返すを尻目に、幸村は着物の合わせ目に手をかけ、今度は容赦せず思い切り左右に開いた。 硬い掌は遠慮も躊躇も無しに、普段曝されることのない肌を確かめる。 押しても叩いてもびくともしない男の身体。 「だから、ちょっと、だめ、やめてってばーーー!」 周囲に聞こえるかもしれない、という配慮もせずに、はその場で叫んだ。 大きな拒絶の声に流石の幸村も驚いたのか、好き勝手に弄っていた手を止め、じい、との目を見つめてきた。 視線に真っ直ぐ射抜かれて、思わずは目をそらす。 「殿は、某を嫌っておられるのか」 「そういうわけじゃないですけど…」 「では、好きか」 「や、まあ、あの…」 「某は、殿を好いておりまする」 「えーと」 「そなたに焦がれて夜も眠れず、そなた無しでは朝も来ない」 「…そ、うですか」 「殿をこの手に抱きたい。子が欲しい。以前より某の心は些かも変わってはおりませぬ」 「……」 自覚があるのか無いのか、大真面目な顔で口説き落とそうとする幸村に、なんと返事をしていいやら見当もつかない。 ただ、体中の血が集まってきたのかと錯覚するほどに、顔が熱い。 「ここに、」 幸村が、の下腹に手を置いた。びく、と思わず身体が跳ねる。 「ここに、欲しいのだ。殿が此処に居る証。某がそなたを愛した証」 「…」 「殿は、欲しいとは思いませぬか」 「…え、と」 「某とそなたとややこと睦まじく暮らす、幸せなことだとは思いませぬか」 低くて耳に心地よい、静かな声。 逆光で影になっている幸村の表情はどこまでも真剣だ。 だからつい、こう答えてしまった。 「お、もい、ます」 答えた次の瞬間彼が見せた表情に、すぐに後悔した。 にやり。 その表現がとても正しい。凄みさえ感じるその表情に、冷や汗を流しながら悔いたとて後の祭り。 ずるい、ずるいずるいずるい! 「なれば早う、脚を開いてくだされ」 そういって、幸村は組み敷く女の着物の裾を乱し、閉じた腿を強く割った。 (080207) |