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今日は久し振りにとの時間が重なった。 最近は、俺が忙しいかが忙しいかであんまり一緒に居られなかった。 こうやってお喋りするの久し振りな気がするね、とが笑う。そうかもね、と俺も笑った。 が、ソファに座りながら買ってきたばかりの雑誌を広げて読んでいる。俺はいつもどおりの定位置、彼女の足元に座り込んで、膝の上に広げられた雑誌を横から見ていた。 中には細くて綺麗な女の人がずらり。はそれらを指差して、これが可愛い、これの色違いが欲しいと言いながら俺に同意を求めてきた。雑誌を指すの指は俺と違って細くて白い。昨日手入れをしていたから爪がぴかぴか光っていて、触りたくなってしまう。 「これ、このコート欲しい」 「こないだ買ったやつは?」 「それはそれ。これはこれ」 「不景気だから節約するんでしょ」 「それはそれ。服代は別」 その代わり、佐助のご飯を少なくするの。と、が悪戯っぽく笑う。 ひっでぇ、俺様が餓死してもいいの!?だなんて悪態をつきながらソファに頭を凭れ掛けた。 ページをめくる度、現れるモデルやら服やら靴を見て、これはに似合いそうだとか、これは絶対似合わないだろうなというようなことを考える。 彼女は色が白くて、ふわふわしているから甘い色が似合うと思う。本人はそうは思っていないみたいだけれども。 はふわふわの柔らかいお菓子みたいな女だ。最近、そんなことを考えるようになった。 昔は、可愛いご主人様としか思っていなかったのに。 そのうちに雑誌は、一日10分で痩せる!なんとかトレーニングみたいなページに差し掛かり、が真剣な表情でそれを読む。は身体かたいから無理じゃないの、と横槍を入れると、クッションで容赦ない攻撃を加えられた。 「そんなことしなくてもは可愛いよ」 「はいはい。何も出ないからね」 「本心だって」 「はいはい」 「そんなヨガみたいなことしてる時間あったら、俺様にもっと構ってちょーだいよ」 はこちらを見て、少しだけ眉を下げた後、その特集ページをすっとばして次へ進んだ。 一瞬だけだったけど、曇った表情を見逃す俺ではない。 もうすぐ終わりだもんね。彼女はそう考えたに違いない。 ページが飛んで、綺麗な指輪やらネックレスの類が現れる。 「わたしも早く、こういうのプレゼントしてくれる男を見つけなきゃ」 「えー無理無理」 「無理じゃありませんー」 「にはまず出会いが無い」 「うるっさいな。今年中に絶対見つけてやるんだから!もしくは来年」 来年。その時はもうこの生活は跡形も無く消え去っているに違いない。 ペットとしての佐助は消えて、はご主人様じゃなくなる。 そしての隣には、彼女の望む物を与える男が並んでいて、それは俺ではない他の誰かで。 …なんて、は想像をしているのかもしれない。 だけど残念ながら、が考えているほど猿飛佐助という男は甘くは無いのだ。 終わりが近付くにつれてどんどん大きくなるこの感情。 はご飯と寝床をくれる大事なご主人様だ、なんて言い訳はもう出来ない。 本当はずっと前から自分を騙してきたんだと思う。 猶予期間を引き延ばして、ずるずるとこの関係をいつまでも続けていたいという気持ちもあった。 だけど、それだけじゃ足りない。 ほら見て佐助、これ可愛い。 そう言って指差すの顔を見上げる。 風呂に入った後の髪は、ドライヤーで乾かしてもまだすこし湿っているようだ。 触りたい、と思う。でも、手を伸ばして髪に触れ撫でてやることは出来ても、それ以上のことは出来ない。 それは、佐助がに飼われている存在だから。そこまでが、佐助に許されている限界だった。 ペットである以上、越えられない壁。 小さな石の入った銀色のリングが、薄っぺらい紙の中できらきらと光っている。 華奢なリングは、きっと彼女の手に良く似合うだろうと思った。 「、あのさ」 「んー?」 「俺、すっごい幸せだったよ」 「なによ、急に」 「うん、なんとなく」 「…あのね」 「なに?」 「あたしも、幸せだった」 ありがとね、とが笑う。佐助もつられて笑った。 この笑顔をずっと見ていたい。 来年も、再来年も、この先もずっと、この柔らかい腕を離したくない。 言葉に出来ないような感情が溢れてきて、喉が詰まった。 好きだ。 この人が好きだ。 俺は彼女に、恋をしている。 とても幸せだった。彼女の腕の中で甘やかされる生活は。 だけど、もっと幸せな明日が欲しい。だから愛おしい今日に別れを告げる準備をしよう。 一時の夢は弾けて消える。どんなに優しい夢でも、そこから醒めなければ望む現実なんてやってこないのだから。 雑誌を指す白い指を捕まえる。 ぎゅうと握ると、彼女は「痛い」と声を上げた。 (090109) |