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「ちょっと、また!」 お風呂からあがってきた佐助に向かって、今日もわたしは小言を漏らす。「あー気持ちよかった」と言いながら歩く佐助の通った後には、ぽたぽたと雫が垂れてフローリングを濡らしていた。 髪はちゃんと拭きなさいと言っているのに、毎日毎日佐助は髪から雫を垂らしながらリビングに戻ってくる。 だから今日も「しょーがないなあ」と言いながらわたしは甘えたがりのペットに向かって手招きするのだ。 「やった」と小さく呟きながら、佐助はフローリングに水を落としながらこちらへ歩いてくる。 佐助が目の前までやってくると、ちょっと甘いようなシャンプーの匂いが強くなった。 「何度言っても学習しないわけね、馬鹿ペット」 「へへ」 「笑ってごまかしてもだめ」 佐助の肩にかかっていた若草色のバスタオルを取り、濡れてしっとりと垂れたその頭にバサッと被せる。 佐助が前かがみになったその時に、髪から垂れた雫がわたしの足にかかった。 「つめたっ」 抗議をもらすわたしに、佐助は全然悪いと思っていないような口調でごめんごめんと謝る。 悪びれた様子もない彼にお返しとばかりに、ちょっと強めにわしわしっと頭を拭いてやった。 頭が揺れるーて言う佐助の声が震えて聞こえる。 はいおしまい、とバスタオルを頭からとってやると、ぼさぼさした髪の間から佐助のにやついた顔が見えた。 そのまま手櫛で髪を後ろに流してやると、気持ち良さそうに目を閉じる。 「明日はちゃんと自分で拭いてね」 「んー」 「返事は?」 「どうしよっかな」と佐助はにやにや顔のまま。 「明日、覚えてたら拭くよ」 「覚えるの」 「俺あたま悪いから無理かも」 だからまた、が拭いてよ。 そういって、佐助はこつんとおでこをくっつけてきた。 佐助の顔にかかる濡れた髪まで、わたしの顔にくっついてくる。 「つめたい!」と文句を言っても、物覚えの悪いペットは特に気にした様子もない。 お風呂から上がったばっかりの佐助は、シャンプーのいい匂いがする。 どうしてだか、朝になるとこれが嘘のように消えてしまうのだから不思議だ。 おなじシャンプー、おなじボディソープ。 彼はペットでわたしは主人で、お互い全然違う人間だけれども、お風呂から上がった後眠りにつくまでの短い時間、彼とわたしの纏う香りは同じものになる。いい匂い。 「、いい匂いがする」 佐助が、おでこをくっつけたまま大きく息を吸って、ゆっくりと吐いた。 あ、同じことを考えてたんだと思って、なんだか嬉しくなって口の両端が上がる。 「佐助も同じ匂いだよ」 「えー違うよ」 「同じだって」 同じシャンプー使ってんだから、同じ匂いだよ。 でも佐助は、もう一度すう、と鼻から息を吸って「やっぱ違うよ」と言ってきた。 わたしには同じ匂いにしか思えないんだけれども、どうやら佐助にとっては違うらしい。 そりゃあちょっとは違うかもしれないけれど、そんな微妙な違いを感じ取れるなんて、本当に犬みたいだ。 「、いい匂い。俺、これ大好き」 そう言って、佐助はわたしの首筋に顔をうずめた。首に直に触れる濡れた髪が冷たくて、佐助がくすりと笑ったその吐息がくすぐったい。 お風呂上りの21時。 甘え上手のおばかペットとご主人様は、今日も優しいシトラスフルーツの香り。 (071220) |