目が覚めて、泣きたくなった。
気持ちが悪い。気持ちが悪い気持ちが悪い!
頭がガンガンと殴られた後のように痛む。喉も痛いし、足も痛いし、しかも吐きそうだ。

布団のなかを、ごろりと転がる。うつ伏せになったらもっと気持ちが悪くなって、慌ててまた仰向けになった。どうしてこんなに具合が悪いのか、その理由を必死に思い出す。昨日、昨日何したっけ。
ぼうと痛む頭をフル回転させて、昨夜の記憶を思い返した。昨夜は…そうだ、昨夜は宴だった。なんの宴だっけ…政宗さんが教えてくれたけれど忘れてしまった。そこで、は政宗さんのところでお行儀よくお酌をしていたのだ。それで、成実さんにも飲めよと言われて、それで。

記憶が曖昧だ。一体自分はどうしたのだろう。だが、あまり喜ばしくない事態になったのは確かだ。だって、口の中まで気持ち悪い。絶望的だ。



「よう、目ェ覚めたかよ飲んだくれ」



…絶望的だ。

すぱん、と襖を開けて登場した政宗さんの言葉から、昨日自分がしでかしたであろう出来事が予想されて泣きたくなった。これはたぶん、飲んだくれた挙句、…ああ想像したくもない!

政宗さんが部屋の中に入ってきて、の布団のとなりに腰を下ろす。続いて入ってきた二人の女中さんが桶水と手拭、それから椀に入った水を持ってきてくれた。頭を動かすと気持ちが悪いから、目線だけをそちらに向けて「すみません…」と小さな声で謝る。女中さんは眉を下げて笑っていた。
政宗さんが軽く手を挙げて、「後はいい」と女中さん達を下がらせる。こんな状態になってしまったにお説教でもするつもりだろうか。動けない現在、うるさいお小言から逃れる術はない。



「昨日は派手にやったな」

「誠に申し訳ございませんが覚えておりません」

「だろうな」



覚えてられるほどの意識があったら、あんなことはしねえよ。
そう言われて、もう死にたいと思った。絶望的だ。一体どんな悪行をしたというのだろう。



、お前酒飲んだの初めてだろ」

「はい」

「自分の限界も知らねえ奴が、無茶しやがる」



地に埋まりそうなほどに落ち込みながら「だって…成実さんが、一緒に飲もうって…」と弱々しく反論する。言い訳すんなと怒られるかと思ったけれど、返事は意外にも「成実にはよく言っておく」だった。



「水飲むか」

「飲んだら吐きます」

「そうか、飲め」

「聞いてました?吐きますよ。絶対嫌ですそんな醜態さらしたくない」

「今更だな」



ああやっぱり、昨夜やらかしてしまったのだ。なんてことだ。しかもこの分だと、おそらく政宗さんの前でやったんだろう。最悪最悪!
政宗さんの「昨夜何があったか話してやろうか」というありがた迷惑な発言に対し「聞きたいけど聞きたくありません」と答えたら、政宗さんは声を上げて笑った。こっちは笑い事じゃないよ。



「百年の恋も冷めますよね…」

「そんなもん、最初から無ェよ」



そう言いながら、政宗さんは手桶の中に手拭を浸して絞った。こんな光景、他の国のひとが見たらどう思うだろう。酔いつぶれて二日酔いになった小娘の介抱をしているなんて、奥州筆頭伊達政宗、独眼竜の名が泣くよ。それを伝えたら、政宗さんは事も無げに「酔っ払いが」と笑った。



「ありえないですね」

「そうだな」

「一国の主に、水持ってこさせてしかも手拭絞らせて…」

「全くだ」



頭が痛い。胸も痛い。ああ、絶望的。泣きたい。
「政宗さんの刀でわたしを撫で斬りにしてください」って言ったら、お前…馬鹿か、って呆れられた。
すみませんすみません、と小さく謝る。後で覚えてろよと口では凄みながらも政宗さんは笑っている。



「この俺にこんなことさせるのは、天下を探してもお前くらいのもんだぜ、



べし、と叩きつけられるように目と額に当てられた手拭は、ひんやりと冷たくて、それを抑える政宗さんの手の重みがとっても気持ちよかった。「できれば嫌いにならないでください」と呟いた声は、政宗さんに届いたかどうか。










絶望★セレナーデ
「今更こんなことくらいで嫌いになったりしねえよ。」









「…だが、お前もう二度と酒は飲むなよ」
「………はい」









(080512)