|
「だから、もっとこう……Shit!ああもういい!貸せ!」 ひったくるように包丁を取り上げた政宗さんは、そのまま全てを自分の手でやってしまった。結局、最初から最後までの出番なんて、全くなかった。 常套句:俺のために毎日味噌汁つくっちゃくれないか。
ほかほかのご飯、湯気をたてるお味噌汁、凍り豆腐と野菜の煮物に焼き魚、漬物。 並べられた美味しそうなご飯を目の前にして、は口を尖らせた。こんな筈ではなかったのに。 「結局、全部自分でやっちゃうんですもんね…」 「てめえの手際が悪すぎるんだよ」 ぷかりと煙草の煙を吐き出しながら、政宗さんが大仰なため息をついた。「お前、ほんっとに何もできねえんだな」と続ける政宗さんにむっとしたが、実際そうだから返す言葉もありゃあしない。 もともと、今日はが政宗さんにご飯をつくってあげようと思っていたのだ。こっそりやろうと思っていたのに、告げ口してくれた成実さんのせいで、政宗さんが台所を覗きに来てしまって秘密の計画が台無しになってしまった挙句、途中から政宗さんの料理教室みたいになってしまった。 最初は、ああだこうだと横から口を出すだけだったのに、だんだん手まで出すようになり、最終的にから包丁も菜箸も取り上げて全部自分でつくってしまった。のやったことといえば、ご飯を炊くためにふうふうと火を吹いていたくらい。意味無し。先生が全部やっちゃうんじゃ、料理教室だって立ちゆかないよ。 「しかも食べるのわたしだし…」 「なんだ、食えねえってのか」 「食べます」 政宗さんにぎろりと睨まれて、慌てて両手を合わせる。頂きます、というを、政宗さんが腕を組んでみていた。そ、そんなに見なくても…と思いながらご飯を食べる。芯が残ってるかもしれないと心配したけれどそんなことは全然無かった。やればできるじゃん自分。火を吹いてただけだけど。 ついで、味噌汁。 「おいしい」 「当然だろ」 ふん、と政宗さんが鼻を鳴らした。悔しいが文句のつけようもなく美味しい。がやったんじゃ、こうはいかなかっただろう。最初は、全部自分でやってしまった政宗さんに文句を言いつつ食べていたのだけれども、あんまり美味しいから途中からそんなことはどうでもよくなってしまった。本当に美味しい。 「美味しいよー」 「だから当たり前だっつってんだろ」 「本当に美味しい」 「…」 「お味噌汁もう一杯のみたい…」 「…」 美味しい、美味しいと夢中で食べていたのだが、ふいに政宗さんが静かになったことに気が付いた。視線をそちらにむけてみると、煙管を片手に、すごくふんわりとした顔で微笑んでいた。はびっくりして箸を取り落としそうになった。だって、こんなに優しくてしかもちょっと照れくさそうな政宗さんの顔なんて、見たことない。 ぽかん、と阿呆みたいに口を開けて政宗さんの顔を見ていると、ふと政宗さんが何かに気が付いたかのようにこちらに手を伸ばした。とっさのことに避けることも出来ずにいると、政宗さんの指先が口の端を掠める。どうやら、ご飯粒がついていたらしい。 「ったく、お前は餓鬼かよ」 という言葉のあとに続いた政宗さんの行動に、はさらに大きく口を開けてしまった。この男、事も有ろうにその取ったご飯粒を、あっさりと自分の口に入れてしまったのだ! 信じられない!という顔で見つめるに、彼は訝しげに「なんだ」と尋ねてくるけれども、ちょっとそれどころじゃない。 「そ、そゆことされるとどきどきするから止めてください」 「は?」 本気でわけがわからない、という顔をしている政宗さんを無視して、ちょっとだけ赤くなった頬を隠すように残りのご飯をかきこんだ。行儀が悪いだのなんだのとお小言を洩らしながら、その間も政宗さんは嬉しそうな優しい顔でずっとこっちを見ていた。 「…政宗さん、わたし、今わかりました」 「何をだ」 「男のひとが、料理のうまい女の人に惚れる理由」 「そうかい」 「ということで、結婚してください政宗さん」 「No kidding!冗談じゃねえ!」 馬鹿言ってねえでとっと食え、膳が片付かねえだろうが! さっきまでの優しい笑顔を消して眉を吊り上げる政宗さんに、お椀を差し出してもう一杯お味噌汁を強請ることのできる強者は、きっとお城でただひとりだ。 プレスト・プロポーズ
「ほんとこの女、信じらんねえ…」 「だいたい、夫の飯ってのは妻が作るもんだろうが!お前が練習しろ!」 「政宗さんが作ったほうが絶対美味しいもん」 (080512) |