がたがた、と音を立てて佐助のほうに机を寄せる。
「どうもすみませんねー」と言って席につくと、佐助から「アイス一本でいいよ」と返された。あとでガム一個あげておこう。
佐助が、ふたつの机の間に教科書を置く。「わたしが忘れたんだから、もっとそっちに置いていいよ」と教科書を佐助のほうに寄せようとしたのだけれども、佐助は、俺様の教科書なんだからどこに置くのも俺様の勝手でしょ、と言ってそのまま真ん中で開いた。

えー今日は72ページからー、という先生の眠たくなる声に合わせて、ゆっくりと佐助が目的のページを探して教科書をめくる。佐助の指は長くて綺麗だ。思わず見とれる。ついでに、佐助の教科書も綺麗だ。は、大事なところがメモされたページなんかは付箋をはったりせずに端を折ってしまうのだが、佐助の教科書にはきちんと付箋が貼ってあった。こういうところは、昔からまめなひとだと思う。


本日快晴。ぽかぽかとあたたかい日差しが差し込んで、思わず眠くなってしまう。いつもよりも近くに佐助がいるのだから、無様な寝顔は見せられない。絶対寝ちゃだめ、と思っているのだけれども、やっぱり眠くてうとうとしてしまう。まずい、これじゃあ駄目だと思って必死に授業のメモをとる。…のだが、眠さのあまり、文字が酷いことになってしまった。

ふ、と一瞬だけ意識がとんで、かくりと首が前に倒れた。それに自分でも驚いて目がさめる。ぱさり、と前に落ちてきた髪をごまかすように耳にかけたところで、横からものすごい視線を感じた。
ちら、と横を見ると、佐助が肘をついて顔ごとこちらを向いていた。横目でちら見とかじゃなくてガン見している。


「あれ、寝ないの?」


にしか聞こえないくらいの小さな声で、佐助が意地悪くにやりと笑った。なんだかむかついたからそれを無視して教科書を見る。佐助はまだこちらを見ている。どきどきする。ちょっとだけ頬が熱い。こんな至近距離で見られて、色々大丈夫だろうか。眉毛とか…。
しばらくそうやってこちらを見ていたかと思うと、今度はの顔に向かって手を伸ばしてきた。どきっとして、思わず体を引いて避けてしまう。



「まつげ」

「え?」

「ここ、ついてる」



佐助が自分の頬、左目の下のほうをとんとんと指で叩いた。え、どこ、と自分の頬に手を伸ばしたが、佐助に止められた。


「俺が取ってあげる」


こっち向いて、と顎をとられ佐助の方を向かされる。心臓がはねた。顔、近い!
動いちゃだめだよ、と言って佐助は人差し指だけでまつげを取ろうとする。ばくばくと全身が心臓になったみたいな気分のなかで、そういえば他人にまつげを取ってもらうときに心の中で願いごとをして、一回で失敗せずにまつげが取れたら願いが叶う、っていうおまじないがあったことを思い出す。かなり近いところにある佐助の顔にどきどきしながら、心のなかで祈った。

佐助が、わたしのことを、好きになってくれますように。



「はい、取れた」



佐助が、まつげのついた人差し指を見せる。一回で取れた!
ありがとね、と素っ気無く言いながらも、心の中はお祭り状態だった。ただのおまじない、迷信だって分かっていてもなんだか嬉しい。しかも取ってくれたのが佐助本人なんだから猶のこと嬉しいのだ。にやつく口元を隠すように手で覆って、授業に熱中しているふりをする。佐助はまだこちらを見ている。



「願いごと、した?」

「……!!」

「俺様が一回で取ってあげたんだから叶うよ、それ」



感謝しろよ、と言ってふわりと笑う佐助のやわらかい表情を見ながら、心のなかで思う。
その願いごとが叶うかどうかは、佐助にかかってるんだよ。












(080511)