照れる夕日に
照れる夕日に





「佐助!一緒にかえろ」


後ろからぱたぱたと走ってくる足音。振り返ると、短い制服のスカートを翻して、が階段を下りてきていた。最後の一段を飛ばして、小さくジャンプ。お、と思ったが…見えなかった。自分と同じくその様子を見ていた男がちらほらといたことに気付き、見えなくてよかったと思いなおした。



「今日、帰りにきゅうり買って来てってお母さんからメール来てた」

「いってらっしゃーい」

「佐助も行くんだって」



ほら、きびきび歩く!といいながら鞄を引っ張るに、やれやれと溜息をつきながらもそのまま着いていく。グラウンドからは、運動部の大きな声が聞こえてくる。その横の弓道場からも。
と佐助は、とくに部活には入っていない。はどうか知らないが、佐助が部活に入らないのには理由があった。単純な理由だ。部活なんてやっていたら、と一緒に居られる時間が少なくなってしまうから。

今日はラッキーだ。委員会が長引いたから、はとっくに帰ったと思っていた。



「…そういえば、佐々木ってひと佐助のクラスに居る?」

「あー…いるね」

「うちのクラスの子がね、佐々木先輩と付き合い始めたんだって!ね、どんなひと?」



かっこいいの?と目を輝かせながら見上げてくるに、「別に普通。俺様のほうがかっこいい」と返すと、背中をばしんと叩かれた。
と佐助、二人の影が夕日に伸びる。しばらく無言で歩いていると、が「あ、そうだ」と何か思い出したように言った。


「そう言えば佐助さ、最近どしたの?」
 
「なにが?」

「彼女」

「ああ、別れたよ」

「えっ、いつ!」

「あれ、言ってなかったっけ」


いつ、なんでと食い下がるに生返事を返しながら、まっすぐ伸びた影を見つめる。なんでと言われても答えられるわけがない。お前が好きだからだよ、だなんて。
答えない佐助に諦めたのか、黙ってしまったを見ると、なんだか口元がだらしない。どこか嬉しそうににやけている。


「なに、にやにやしちゃって」

「別にー」


はやくきゅうり買って帰ろ、とが笑って、こちらの手をとった。
手を繋ぐなんて、何年ぶりだろうか。はしゃいだ様子のは特に気にする様子もなく、はやくしろと手を引っ張る。


「腕が抜けちまう、馬鹿力」

「うっさい」


伸びたふたつの影が繋がる。
いつか、にも恋人が出来るのだろう。
だがそれまでは。

に気付かれぬように、佐助は握る手に少しだけ力をこめた。





並ぶ影
並ぶ影








(080509)